研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
22105008
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川口 博之 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (20262850)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 高活性金属錯体 / 前周期遷移金属 / ヒドリド錯体 |
研究概要 |
本年度は高活性金属錯体として、p-ターフェノキシド配位子[OO]を用いて4族遷移金属の低原子価錯体の合成を行った。 配位子のリチウム塩Li2[OO]とTiCl3(THF)3を1:1の割合でTHF中、反応させた後、DMEより結晶化することにより、[(OO)TiCl(DME)] (1)を得た。X結晶構造解析より、チタン–アレーン間に弱い相互作用が存在していることが明らかになった。この錯体1を窒素雰囲気下、KC8で還元したのち、ピリジン存在下で結晶化することにより反磁性の[{OO}Ti]2(N2) (2)を得た。錯体2は2つのチタン金属中心をend-on型で架橋した二核構造をもつことをX線構造解析により明らかにした。 ベンジル錯体Zr(CH2Ph)4と1倍等量のH2[OO]を反応させた後、2倍等量の[Et3NH]Clを作用させることにより、[OO]ZrCl2(THF) (3)を得た。錯体3を同様に還元すると窒素錯体は得られず、[OO]Zr(THF)3 (4)が得られた。X線構造解析より、 [OO]配位子のアレーン部位がジルコニウム金属に強く相互作用していることが明らかになった。 錯体4に有機アジドArN3を反応させると、N2の脱離を伴いながらイミド錯体[OO]Zr=NAr(THF)2 (5)が生成した。一方、二硫化炭素CS2を作用させると[(OO)Zr(THF)]2(C2S4) (6)が得られた。錯体6は、CS2の還元的カップリングで生成したエチレンテトラチオレート配位子が架橋した二核構造をもつ。錯体5および6の生成は、錯体4が低原子価ジルコニウム種の前駆体として作用していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前周期遷移金属の配位不飽和な低原子価種は極めて反応性が高く、小分子活性化などの多様な分子変換を可能にすることが知られている。p-ターフェノキシド配位子[OO]は、2つのアリールオキシド基で金属中心にキレート結合することで、アレーン部位が金属近傍に存在する構造をとる。金属–アレーン間の分子内π相互作用を通して、低原子価種を安定化できる。一方、アレーン部位が脱離することで、低配位環境を作り出すことが可能である。[OO]配位子をもつ4族線金属錯体の合成をとその反応性をとおして、これら錯体が高活性な低原子価種の前駆体として作用することを明らかにした。以上のことより、本研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題ではこれまでに、アリールオキシド基を補助配位子として用い、ヒドリド錯体あるいはアレーン錯体を合成し、これらの金属錯体を反応場として用いることにより、窒素分子、一酸化炭素、二酸化炭素などの安定小分子の特異な変換反応が可能であることを明らかにしてきた。現在、アリールオキシド基とアニリド基を混合したハイブリット型多座配位子などの設計、合成をすすめている。これらの結果を基に、金属錯体の反応性への影響、効果を系統的に調べ、高活性反応場設計への指針をまとめる。
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