計画研究
多くの酵素の活性部位においては、触媒官能基が他の活性な官能基から孤立した環境にあるため、反応活性種が長寿命をもって反応に関わることができ、基質分子の効率的な活性化が達成されている。本研究では、このような特質をもつ反応場として、内部に官能基を固定したbowl型デンドリマー骨格に基づく巨大分子キャビティを開発し、活性種の安定化を図るとともに、それらが本来もつ高い反応性を究明することを目的としている。今回、生体内において重要な役割を果たしている抗酸化酵素の活性中間体の合成と新たな反応性の開拓について検討を行った。セレネン酸は、抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼの触媒サイクルにおける重要な中間体であるが、通常きわめて容易に脱水二量化を起こす。これまでに、立体保護などにより安定化された例はいくつか報告されているものの、酵素由来セレネン酸のモデル分子として最も適切な第一級アルキル置換体については合成例がない。今回、キャビティ型分子骨格を活用することで、第一級アルキル置換セレネン酸の合成・単離に初めて成功した。得られたセレネン酸は固体状態では高い熱安定性を示したが、興味深いことに溶液中では、加熱により水を放出しながら徐々に分解し、ほぼ定量的にセレノアルデヒドへと変換された。水のβ脱離による多重結合の形成は、有機化学の最も基本的な反応形式の一つであるが、脱水による炭素-セレン二重結合の形成はこれが初めての例である。反応機構について検討した結果、この脱水反応が、セレネン酸に特徴的な反応性を反映した二つの段階を経ていること、また興味深いことにセレネン酸が自己触媒として機能していることが明らかになった。また、キャビティ型骨格を有するN-複素環カルベン配位子の応用についても検討し、カルベン配位子を有するパラジウムペルオキソカルボナート錯体の特徴的な反応性を明らかにした。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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