研究領域 | 気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 |
研究課題/領域番号 |
22106005
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川村 隆一 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30303209)
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研究分担者 |
冨田 智彦 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (20344301)
飯塚 聡 独立行政法人防災科学技術研究所, 観測・予測研究領域, 主任研究員 (40414403)
渡部 雅浩 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70344497)
佐藤 尚毅 東京学芸大学, 自然科学系, 講師 (90392935)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 気象学 / 海洋物理・陸水学 / 気候変動 / モンスーン / 黒潮・黒潮続流 |
研究実績の概要 |
全球気候モデルMIROCによる高解像度大気海洋シミュレーションの解析結果から、黒潮大蛇行は冬季の温帯低気圧の発達経路を南偏させ、発達の抑制により下流方向に海面更正気圧を上昇させるインパクトがある事が見出された。海面からの潜熱フラックスの減少並びに下層傾圧性の弱化と矛盾しておらず、冬季の低気圧活動に果たす黒潮の能動的役割が明らかになった。 冬季日本海の海水温変動が日本の冬季降水量変動へ与える影響をデータ解析と数値実験により調べた。1980年以降、日本海の極前線の北東部での海洋の内部力学に起因する海水温変動と日本海沿岸の東北地方の降水量変動との間に有意な相関関係が見られた。また、領域大気モデルに実際の海水温を与えた実験と年々変動を除去した海水温を与える実験を行い、両者で再現される降水量変動の違いを調べた。その結果、年々変動を含む海水温を与えた実験の方が、観測された降水量変動を良く再現していた。これらから、日本海極前線の北東部の海水温変動が、冬季日本海沿岸の降水量変動に影響を与える可能性が示唆された。 黒潮/黒潮続流域における冬季の低気圧活動の経年変動について、引き続き調査を行い、低気圧活動や大気海洋結合との関連を整理した。梅雨期における海上気象と海洋表層の変動を解析し、梅雨前線に伴う下層ジェットの影響によって温度躍層に変動が生じ、黒潮フロント域の水温勾配が強化されていることを見い出した。熱帯低気圧の強風域の大きさが大気海洋結合によって影響を受けていることを示唆する解析結果と理論的仮説を得た。 大規模大気循環の観点より、梅雨前線の活動度と熱帯低気圧活動の経年変動における共変動性を明らかにした。大気海洋結合GCM内の 梅雨前線活動に数十年規模変調が出現するかどうかを検証、特に黒 潮続流域のSST偏差、上向き熱フラックス偏差による梅雨前線活動の変調プロセスを診断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの主な成果として、①領域大気モデルの数値実験で、黒潮続流域の海水温変動が風下側の海上で降水量変動を増大させる効果があること、②冬季東アジアモンスーン変動と海面水温勾配との相互作用が日本近海の低気圧活動を大きく規定していること、③黒潮・黒潮続流域で冬季の低気圧活動の近年の活発化が本州南岸の降水量を増加させていること、④黒潮大蛇行が南岸低気圧の経路を変えている現象が高解像度全球気候モデルで再現されたこと、⑤梅雨降水の経年変動に関連する大規模循環の形成に熱帯低気圧がどのように関与しているのかを見出したことなどが挙げられる。 達成度としては、領域大気モデルを用いた海面水温実験で黒潮続流の変動が降水量変動に影響を与える効果を定量的に見積もれたことなどは期待通りの成果である一方、他の計画班の成果である、日本南岸の黒潮大蛇行が南岸低気圧の経路に及ぼす影響を高解像度大気大循環モデルの長期積分実験で検証できたことや、本州南岸の降水量の近年の増加傾向が低気圧活動の活発化によって生じている事実が見出されたことは当初計画には無かった重要な進展である。
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今後の研究の推進方策 |
① 黒潮・黒潮続流の海面水温(SST)勾配とモンスーン変動との複合効果が領域大気モデルのSST 実験で見出されたことは、双方向作用の重要性を再確認できる成果となった。低気圧活動に大きな影響を与える、SST 勾配がもたらす下層傾圧性と潜熱フラックスの相互の定量的評価を進めていく必要がある。 ② 冬季東アジアモンスーンが黒潮に与える外部的な影響というよりは、黒潮/黒潮続流域における大気海洋結合系の内部変動という形で研究が進み、表面的には当初予定していた方向性とはいくらか異なる方向に進んだが、日本の南岸での降水の増加という社会的関心の高い知見が得られた。近年において黒潮/黒潮続流域で冬季の低気圧活動が活発化して本州南岸の降水量が増加しているという知見は、10 年スケールの大気海洋相互作用が寄与している可能性があり、今後の新たな展開が期待される。また、梅雨前線や台風の発達に関する大気海洋結合の役割を示唆する結果も得られ、冬季に限定しない成果が得られつつある。 ③ A01 班の研究成果である、日本南岸の黒潮大蛇行が南岸低気圧の経路に及ぼす影響を、全球気候モデルMIROC による高解像度大気海洋シミュレーションの気候再現実験データで検証できたことは当初予期していなかった成果であるが、さらに、そのメカニズムを明らかにしていく必要がある。 ④ 当初計画していた領域大気モデルの数値実験結果を利用した成果は論文・学会等で発表することができ、新たな知見も多く見出された。低気圧擾乱への影響に関する解析においては、領域大気モデルにおける擾乱の抽出方法などに改善すべき問題が生じたため、これについては引き続き解析を進める必要がある。 ⑤ 高解像度大循環モデルの長期積分の結果から、梅雨の10 年スケールの長期変動と黒潮・黒潮続流との関係が見出されており、今後その詳細なプロセスとメカニズムを調査していく予定である。
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