研究領域 | 気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 |
研究課題/領域番号 |
22106010
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
|
研究分担者 |
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
浮田 甚郎 新潟大学, 自然科学系, 教授 (80272459)
木村 詞明 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 特任研究員 (20374647)
小木 雅世 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 研究員 (50392957)
金子 正美 酪農学園大学, 農学生命科学部, 教授 (00347767)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 大気海洋海氷相互作用 / オホーツク海 / 北極圏 |
研究実績の概要 |
1.オホーツク海の海氷域面積の変動は冬季のアリューシャン低気圧に変動をもたらすと考えられている。その海氷変動の要因として、北太平洋からの高温高塩水の流入量が重要である。H25年度はオホーツク海を非常に細かく解像した北太平洋の海洋海氷結合モデルを用いてトレーサー実験を行い、高温高塩水の流入過程を考察した。その結果、海流が詳細に再現され、ベーリング海から千島列島通過まで1~2年、通過後に海氷生成域へと向かう時間スケールが約1年であることが分かった。これは、ロシアデータを用いた解析による、塩分移流の時間スケールとよく一致している。この解析をさらに北太平洋全域に広げ、亜寒帯循環の塩分変動に対して亜熱帯循環からの塩分流入が重要であることを見出した。 2.オホーツク海海氷変動のもうひとつの要因である晩秋の寒気移流は、夏から秋にかけての北極海東シベリア沖海氷変動からの影響を密接に受けていることが、前年度までに本研究により見出されている。H25年度はそのメカニズムの解明を、全球結合モデルを用いた数値実験により進めた。特に、秋季北極海東シベリア沿岸に海氷が多い場合に形成される局所的な高気圧性偏差と、それに伴う寒気吹き出し強化のメカニズムに注目した。また、氷縁における海氷融解過程に重要な海氷バンドの形成メカニズム理論をさらに進めた。 3.夏季オホーツク海高気圧から吹き出す北東風は北海道・東北地方にしばしばヤマセのような寒冷な気象現象をもたらす。北東風が冷涼である要因に千島列島周辺の表面水温が非常に低いことが挙げられる。千島列島近傍における冷水帯と下層雲形成の関係を調べるためにロシア船に乗船して冷水帯の観測を行い、その要因である潮汐混合と混合層下の冷水の湧昇を観測した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.オホーツク海の海氷変動を特徴付ける寒気移流を引き起こす原因として北極海東シベリア沿岸海氷の変動が重要であることが本研究ではじめて見出されており、現在データ解析、数値実験の両面からこのメカニズムの解明を継続している。さらに、北極海東シベリア沖の海氷面積変動に関して、夏季における海氷の多寡は前冬の海氷運動の収束・発散が引き起こす海氷の厚薄によっても変動するという新たな知見を見出した。 2.オホーツク海の海氷面積を制御するもう一つの要因として、ベーリング海西部を経由してオホーツク海へ流入する水塊の水温・塩分偏差の長距離伝搬が重要であることが、ロシアの極東海洋気象研究所が管理する水位および水温・塩分データにより明瞭に示されている。H25年度は、そのプロセスをさらに、オホーツク海を格子幅3~7㎞と非常に細かくした北太平洋モデルで再現した。細い海流がもたらす時間スケールなど海洋観測データセットでは得難い結果を、数値モデルにより狙い通り得ることができた。 3.千島列島周辺の低温水形成プロセスの要因である混合層下の冷水の湧昇を観測した。なお、本観測はH26年に繰越して行われた。度重なる変更が生じたにもかかわらず、日露双方において粘り強く問題を克服することにより実現した観測であることを特記する。 4.氷縁の融解に重要と思われる海氷バンドの形成プロセスを、内部波と海氷漂流の共鳴相互作用の観点から初めて見出し、その解析も順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
1.オホーツク海における衛星からの海氷観測、ロシア未公開データを加えた海洋データセット、大気再解析データを主に用いて、海氷変動、オホーツク海-北太平洋間の海水交換、ベーリング海・アラスカ湾を含む亜寒帯循環、アリューシャン低気圧の変動の相互連関を調べる。水温に加え塩分にも注目し、変動の起源を探究する。さらに亜寒帯西部を高解像度(3km格子程度)にした北太平洋モデルによって、これらの関係を調べるための数値実験を行う。降水や風など上記の結果と地球シミュレータの全球結合モデルによって計算された100年分の出力を解析することによって、北太平洋亜寒帯循環を含むオホーツク海周辺海域での海氷・大気・海洋間フィードバック機構の解明を目指す。 2.北極海における衛星による海氷観測、新たな高解像度大気モデル実験を行い、東シベリア沖の海氷変動、寒気移流、オホーツク海の海氷変動の関係を明らかにする。地球シミュレータの全球結合モデルを用いてアンサンブル実験を行い、北極海の海氷偏差に対する大気の偏差場形成メカニズムを明らかにする。また、東シベリア沖の海氷変動の要因を、前年冬季の海氷運動や大気再解析データを解析することで明らかにする。季節進行を跨いだ北極圏変動の継続性に注目し、それがもたらすオホーツク海の海氷変動について明らかにする。また、海氷バンド構造のような氷縁の素過程の研究も継続する。 3.オホーツク海・千島列島近傍における冷水帯と下層雲形成の関係を調べたロシア船観測データの解析を行い、オホーツク海海面水温の低温維持機構を明らかにする。さらに数値モデルを用い、冷水帯と霧・下層雲との相互作用を明らかにする。
|