研究概要 |
本研究では、特徴ある化学構造と有用な生理活性を持つ微生物が産生する二次代謝産物に焦点を絞り、それらの生合成系を遺伝子・酵素レベルで精密に解析することを目的とし、放線菌の生産するポリケチド抗生物質ビセニスタチンおよびアミノ配糖体抗生物質であるカナマイシンの生合成遺伝子の機能解析を行った。 ビセニスタチンはStreptomyces halstedii HC34から単離された抗腫瘍性20員環マクロラクタム抗生物質である。ビセニスタチンのアグリコンは、特徴的なアミノ酸とポリケチド鎖が連結して構築すると考えられ、生合成工学的手法により新たな分子創製も可能になると期待された。ビセニスタチンのスターター生合成に関しては、vinクラスターの中央部に位置する特徴的な8つの生合成酵素VinH,I,J,K,L,M,N,Oが関与すると推定された。そこで遺伝子破壊実験で機能解析を行ったVinH, Iを除く6つの遺伝子について、異種発現を行い、in vitroの実験によりそれらの機能を解明した。すなわち、グルタミン酸から3-メチルアスパラギン酸を経てポリケチド合成酵素にロードされるビセニスタチンのスターター部位構築機構を明らかにした。 カナマイシンはStreptomyces kanamyceticusが生産する最も有名なアミノ配糖体抗生物質である。本年度は、カナマシンの生合成の最終段階に関わるα-ケトグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼおよびNADPH依存型の脱水素酵素の機能を明らかにした。これら酵素はカナマイシン生合成遺伝子クラスターに特異的に含まれる酵素遺伝子であり、これらの酵素は脱アミノ化、引き続くケトン基から水酸基の還元を行い、カナマシンBからカナマシンAへの変換に機能していることが分かった。これにより、これまで不明であったカナマイシン生合成の全貌を明らかにした。
|