研究領域 | 生合成マシナリー:生物活性物質構造多様性創出システムの解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
22108006
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
池田 治生 北里大学, その他の研究科, 教授 (90159632)
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研究分担者 |
小松 護 北里大学, その他の研究科, 助教 (40414057)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生合成マシナリー / ゲノム / 二次代謝産物 / 抗生物質 / 放線菌 / 異種発現 |
研究実績の概要 |
多くの有用2次代謝産物を生産する能力を有するStreptomyces属をモデルに、異種生合成遺伝子群発現のための汎用性のある最適化宿主の構築を目的に検討を行っている。ゲノム解析が完了し、かつ駆虫薬エバーメクチンの工業的な生産菌であるStreptomyces avermitilisを用いて最適化宿主の構築を行い、これまでに10種を越える異種生合成遺伝子群を導入および代謝産物を確認することに成功している。一方、巨大DNAのクローニングはBACベクターを利用する方法が多くの生物種で行われている。これまでいくつかの改良を行い、当初問題であったクローンの安定性などを改善し、効率良く80 kb~100 kb程度のDNA断片をBACベクターにクローン化することが可能となった。線状レプリコンを物質生産のためのベクターとして利用する試みはこれまでに報告例はなく、遺伝子発現が染色体上と同一でかつ伝達性の線状レプリコン(S. avermitilisの線状プラスミドSAP1)を利用することで最適化宿主のみならず、他の菌株への移動が容易になることが期待できる。線状プラスミドSAP1に関しては、既に我々によって全塩基配列が決定されており、他の放線菌の線状プラスミドが複製・分配に宿主染色体上の遺伝子産物を必要とするが、SAP1は宿主に依存しない自己複製・分配が可能である。さらにSAP1に溶原化ファージの染色体組み込み配列attBを配置し線状レプリコンベクターシステムを構築した。作製した線状レプリコンベクターに異種生合成遺伝子群のうちクロラムフェニコール、ストレプトマシン生合成遺伝子群を導入した最適化宿主の形質転換体は、染色体のattBに組み込んだ形質転換体と同様の安定な発現および代謝産物の生成を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで10数種の異種生合成遺伝子群を我々が開発したS. avermitilisの最適化宿主に導入し、それぞれの代謝物の生成まで確認することができた。2種の異種生合成遺伝子群に関しては発現が全く認められなかったが、制御遺伝子の強制発現あるいは生合成遺伝子群を直接強制発現させることによって代謝産物の生成を確認することができた。したがって我々の構築した異種生合成遺伝子発現系は「生合成マシナリー」として極めて有効な系であることが確認された。一方、転写過程で最も重要な酵素であるRNAポリメラーゼのβサブユニット(RpoB)の変異はしばしば二次代謝産物生成の変化をもたらすことが観察されている。S. avermitilisから数種のrpoB変異株を取得し、さらに変異rpoBをクローン化することによって最適化宿主へ同遺伝子変異を導入する系を構築した。その結果rpoB遺伝子の変異による生合成遺伝子群の発現変化はグローバルではなく置換アミノ酸の位置および種類によって異なることを見出した。この結果は生合成遺伝子群の上位の発現制御を考察する上で重要な結果である。線状レプリコンを物質生産におけるベクターとしての利用は、これまで報告がない新たな試みである。S. avermitilisが保有する線状プラスミドSAP1はこれまでの解析によって宿主からの因子無しで自律複製・分配・伝達することを明らかにしてきた。さらにファージ組み込み配列を配置した線状レプリコンベクターはストレプトマイシンやクロラムフェニコールなどの生合成遺伝子群を効率良く組み込むことが可能であるとともに、物質生産も染色体に組み込んだクローンと同程度の発現量および物質生産を観察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で構築したS. avermitilisの最適化宿主はこれまで10数種の異種生合成遺伝子群の導入と発現、さらには物質生産を検証することができた。これまで検討してきた異種生合成遺伝子群はコスミドベクターでクローン化可能なおよそ40kb程度である。生物活性の多様性ならびに医薬品として利用されている化合物の中にはラクトン型ポリケチド化合物が含まれる。これらの化合物はI型ポリケチド合成酵素によって生合成されるが、生合成遺伝子群は65~100 kb程度の大きさであり、生合成遺伝子群全体をクローン化するにはBACベクターを利用しなければならない。これまでの検討によって100 kb程度のDNA断片をBACベクターに効率良くクローン化することを確立した。Streptomyces属は一般的に大腸菌で調製したDNA(Dam Dcmによってメチル化されている)を強く制限する。S. avermitilis最適化宿主も同様に大腸菌で調製したDNAを制限する。Streptomycesの染色体と同じトポロジーを有する線状プラスミドに着目し、さらに溶原化ファージの特異的な組み込み配列(attB)を導入した線状レプリコンベクターを作製した。同ベクターはStreptomyces属間で接合によって効率良く伝達させることが可能であったためStreptomyces属で制限の非常に弱いS. lividansにSAP1ベクターを配置し、これにBAC クローンを導入しSAP1ベクターに組み込むこと検討する。またcosmidクローン程度の大きさの断片を組み込んだSAP1ベクターがStreptomyces属間で接合伝達することを利用し、BACクローンを組み込んだSAP1ベクターをS. avermitilis最適化宿主に接合伝達によって移動させ、異種生合成遺伝子群の発現および物質生産の評価を行っていく。
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