研究領域 | 生合成マシナリー:生物活性物質構造多様性創出システムの解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
22108006
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
池田 治生 北里大学, その他の研究科, 教授 (90159632)
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研究分担者 |
小松 護 北里大学, その他の研究科, 助教 (40414057)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 生合成 / 異種発現 / 2次代謝産物 / 最適化宿主 / 放線菌 / 物質生産 |
研究概要 |
我々はこれまでにゲノム解析が行われ、かつ工業生産に用いられているエバーメクチン生産菌S. avermitilisから最適化宿主を構築してきた。I型ポリケチド合成酵素(PKS)によって骨格形成が行われる生合成遺伝子群の全長は50 kb以上にもおよび100 kbを越える生合成遺伝子群も少なくない。しかしながらこれまでS. avermitilis最適化宿主への巨大DNAの直接導入は効率が問題であった。本年度S. avermitilisが保有する線状プラスミドSAP1のベクターとしての有用性を確認した。S. lividansは他のStreptomycesとは異なり大腸菌で調製したDNAを制限する能力が低いため巨大DNA断片を含むBACクローンの導入が比較的容易であった。BACクローンをS. lividans内のSAP1ベクターに導入した後、SAP1の伝達能を利用してS. avermitilis最適化宿主に導入する系を構築した。検討した80~110 kbのI型PKS生合成遺伝子群を含むBACクローンをS. lividansを経由してS. avermitilis最適化宿主に導入することが可能となった。これらの異種生産はDNAの抽出源の元株の生産量を越えるものがいくつかあった。線状プラスミドSAP1は物質生産のためのベクターとしての有用性が確認されたためS. coelicolor A3(2)が保有するSCP1(356 kb)に関してもSAP1同様に組込型ベクターを構築した。 これまでラクタシスチン生合成遺伝子群は5つ遺伝子が同一転写単位で発現することを明らかにしている。類似の化合物の生合成遺伝子群との比較によってチオエステラーゼ遺伝子を欠いているためN-アセチルシステインが結合していることが推察された。上記チオエステラーゼ遺伝子および上流遺伝子との遺伝子間距離およびリボソーム結合配列を最適化した人工遺伝子を作製しS. avermitilis最適化宿主に導入した。得られた形質転換体はラクタシスチンを全く蓄積せずclasto体および水解産物を直接生産することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初、線状レプリコンを利用した巨大DNA断片のクローニング系を検討したが導入効率などの問題で大幅な変更を行い、線状プラスミドを活用する新たな系を構築することによってさらなる有用性を見出すことができた。一般に100 kbを越すDNA断片の導入は大腸菌においても特殊な株を使用しなければならない状況ではあるが、S. lividansがこの目的に適用できることを見出し、かつ効率良い異種発現を達成するため伝達性の線状プラスミドベクターを用いる組み合わせは巨大生合成遺伝子群のみならず比較的小型の生合成遺伝子群のS. avermitilis最適化宿主での発現さらには物質生産の達成が可能であることを示した。 一方、S. avermitilis最適化宿主は内在性の主生産物の生合成遺伝子群を欠失させているためこれらの生産が停止している。この状態に異種生合成遺伝子群を導入し発現させるため、宿主の前駆体は新たに生成した生合成系に効率良く利用されることが期待できる。実際に生合成遺伝子群のDNAを抽出した元株での生産量を上回る例が多数観察された。また、異種発現系で最も重要かつ期待されることは、休眠生合成遺伝子群の覚醒とそれによる物質生産の開始である。本研究では数種の休眠生合成遺伝子群を最適化宿主に導入するだけで生合成遺伝子発現が開始および物質生産の達成を確認してきた。 一方、公募班の研究者との共同研究によっても成果をあげつつある。共同研究者はこれまでS. lividansでの異種発現を検討していたが、生産量および生産の不安定性さから十分な解析が達成できていなかった。我々が構築した組み込み型ベクターおよびS. avermitilis最適化宿主の組み合わせ解析を行い、安定かつ高生産が観察されるとともにこれまで以上の詳細な解析が可能であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまで生合成遺伝子群全体のクローン化も困難であったI型ポリケチド化合物の生合成遺伝子群に関しては組み込み型BACベクターの開発ならびに伝達性のセイン上プラスミドベクターの開発によって、完全長生合成遺伝子群をクローン化することが可能となった。本課題で多くの生合成遺伝子群の発現を試みてきたが発現が十分でない、あるいは全く発現が観察されない場合もあった。生合成遺伝子群内に発現調節遺伝子が存在する場合は、調節遺伝子のプロモーター交換によって発現を達成することができた。一方、thiostreptonなどのthiopeptide化合物の生合成遺伝子群内には自己耐性遺伝子が存在しない。実際にS. avermitilis最適化宿主へのthiostrepton生合成遺伝子群の導入は困難であった。このような生成物に対する自己耐性を解決するため、thipeptideに対する耐性遺伝子の選別と共発現を検討する。 2次代謝産物の生合成研究は、主に各段階の生合成遺伝子の研究を中心に行われてきている。2次代謝産物は1次代謝によって生成された前駆体、補酵素およびエネルギーなどを利用して生成されるものである。したがって、例え生合成遺伝子群の発現が良好であっても、生合成に利用される前駆体や補酵素の供給が十分でなければ物質生産を達成することはできない。これまで前駆体生成と2次代謝産物の生合成との関連を比較検討する研究はほとんど行われていない。最適化宿主では異種生合成遺伝子群の発現が多数達成できるため前駆体や補酵素の供給に関する検討が異なる生合成でも比較検討することが可能である。我々はこれまでに中心代謝系である解糖系とペントースリン酸経路に関する欠失変異株を作製してきている。最終年度ではこのような1次代謝系の改変による物質生産への影響を精査し、最適化宿主としての機能の増強を検討する。
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