研究領域 | 生合成マシナリー:生物活性物質構造多様性創出システムの解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
22108007
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五味 勝也 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60302197)
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研究分担者 |
町田 雅之 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, グループ長 (30358006)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 菌類 / 抗生物質 / ゲノム / 発現制御 / 細胞内局在 |
研究実績の概要 |
本研究では、部位特異的組換えシステムCre/loxPを利用し、簡便かつ高効率な選択マーカーリサイクリング技術を開発し、麹菌における多重遺伝子導入システムの構築を目指している。前年度までに、thiAプロモーターを利用したCre発現カセットを染色体上に導入し細胞内でCre発現を誘導し、変異型lox配列を持つ株でも非常に高頻度でマーカーを除去できた。今年度は、選択マーカーとCreの条件的発現カセットの両者を変異型lox配列で挟みこんだ断片を搭載した高発現用プラスミドを構築することを試みた。選択マーカーとしては菌体の着色でマーカー脱落が判定可能なadeA遺伝子を、Cre発現誘導にはキシロースで誘導、グルコースで抑制がかかるxynG2プロモーターを用い、宿主株の作製ならびに選択マーカーとCre発現カセットを変異型lox配列間に持つ発現用ベクターの構築を行い、より使いやすいシステムを開発した。 一方、糸状菌の二次代謝化合物生合成酵素の細胞内局在解析を目的として、Phoma betaeが生産するアフィディコリンの生合成酵素をモデルとして、それらを麹菌で発現させた場合の細胞内局在化について検討した。各生合成酵素のC末端側にGFPを連結させた融合タンパク質を麹菌amyBプロモーター下で発現させるプラスミドを構築し麹菌へ導入した。作製したこれらの株を用いて共焦点顕微鏡による蛍光観察を行い、融合タンパク質の細胞内局在を観察した。オルガネラマーカーとの共局在観察の結果、生合成経路の前半の反応を触媒するGGSおよびACSは細胞質に局在することが認められ、cytochrome P450(P450-1、P450-2)については、いずれも小胞体に局在するものと考えられた。さらに、アフィディコリンの排出に関わると考えられるトランスポーターは細胞膜に局在すると同時に液胞膜にも局在が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①二次代謝化合物生合成マシナリーを構成する複数の生合成酵素遺伝子を麹菌宿主に効率的に導入するシステムとして、Cre/loxPシステムを用いた選択マーカーの新規なリサイクリング方法を開発できた。実際にこのシステムを用いたモデル実験として、麹酸生合成酵素と細胞外排出トランスポーターの遺伝子を順次麹菌宿主に導入することが容易にでき、その結果トランスポーター高発現により麹酸の高生産が達成できることが明らかとなった。さらに、効率が良くコストもかからない改良型Cre/loxPシステムもほぼ完成し、簡便かつ迅速に多重遺伝子導入が可能になってきた。二次代謝化合物の高生産には目的化合物の細胞外への排出に関わるトランスポーターの高発現が有効であることを示すことができ、研究課題の目標の一つを達成できたと考える。また、A01班の及川グループと連携した共同研究により、麹菌を宿主としてアフィディコリン生合成マシナリーの構築が達成できた。②二次代謝化合物生合成酵素群の細胞内局在観察に必要な技術を確立し、A01班の及川グループと連携した共同研究により、アフィディコリン生合成マシナリーを構成する生合成酵素ならびにトランスポーターの細胞内局在を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)複数の生合成遺伝子の安定かつ効率的な染色体導入法の開発:キシラナーゼ遺伝子プロモーターに連結したCreと選択マーカーの両方を変異型lox配列に挟んだカセットを持つ改良型Cre/loxPシステムを利用して、何種類かの二次代謝化合物生合成遺伝子の導入試験を行い、その実用性を検証する。A. nidulansも含めた各種宿主株で使用できるプラスミドや発現カセットを複数搭載したプラスミドも構築する。2)糸状菌細胞内における基質供給経路のオミクス解析:前駆体の生産量が異なる菌株間や変異株におけるオミックス解析を行い、遺伝子発現や細胞内代謝物のプロファイルを比較することにより、前駆体の合成と相関して変化する遺伝子および化合物を同定する。関連遺伝子の人為的発現制御や基質の培地中への添加などにより、基質や前躯体の供給量等のバランスを改善することで生産量の増加を図る。3)二次代謝化合物の生合成マシナリーのオルガネラ局在化に関する細胞生物学的解析:宿主(麹菌)あるいはその近縁微生物由来の二次代謝化合物生合成遺伝子クラスターに存在する遺伝子産物の局在を解析する。緑色蛍光タンパク質との融合タンパク質を用い、その局在を蛍光顕微鏡や細胞分画法により解析する。オルガネラ局在化シグナルを付加した生合成酵素のオルガネラ局在化をもとに構築した生合成マシナリーによる新規化合物の生産を行う。4)生産物の細胞外排出トランスポーターの同定およびその機能強化による生産性の向上:未同定のペニシリンならびにシデロフォアのトランスポーターを麹菌ゲノムから探索してその高発現が生産量に及ぼす効果を検証する。生合成クラスターにすでにトランスポーター遺伝子の存在が明らかになっているアフィディコリンおよびロバスタチンについても、トランスポーター高発現の生産量向上への効果を調べる。
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