研究領域 | 生合成マシナリー:生物活性物質構造多様性創出システムの解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
22108007
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五味 勝也 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60302197)
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研究分担者 |
町田 雅之 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, グループ長 (30358006)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 二次代謝化合物 / 遺伝子高発現 / 遺伝子破壊 / マーカーリサイクリング / 生合成酵素 / 細胞内局在 / トランスポーター / 糸状菌 |
研究概要 |
1.大腸菌内での Cre 発現を抑えるために Cre 遺伝子内に人為的にイントロンを挿入したところ、目的とするプラスミドが取得できた。さらに、Cre 発現のための条件的発現プロモーターとしてアオカビ由来のxylP遺伝子プロモーターを使用することにより、非相同領域への挿入が抑えられ、得られた形質転換体をグルコースおよびキシロースを炭素源とした培地で培養後、ゲノム PCR を行った結果、Cre 誘導条件でadeA マーカーと同時に Cre 発現カセットも脱落していることが確認された。構築したシステムを用いて麹菌の持つコウジ酸生合成酵素の遺伝子kojA、kojT 導入株とα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子 (agsA, agsB, agsC) の三重破壊株を作製し、それぞれをゲノム PCR により確認した結果、kojA 、 kojT が導入されたこととα-1,3-グルカン合成酵素の三つの遺伝子がすべで破壊されたことが示された。このように、構築したシステムを用いて多重遺伝子導入株と多重遺伝子破壊株が容易に作製できることが分かった。 2.アフィディコリンの炭素骨格を合成する2つの可溶性酵素は細胞質に局在し、生合成反応の最終段階に関わる2種類のシトクロームP450は小胞体に局在していることが示された。P450による水酸化反応が小胞体の内外どちらで起こるのかを調べたところ、どちらも触媒ドメインは細胞質側に存在していることが明らかとなった。トランスポーターは発現量に応じて小胞体から細胞膜へと局在を変える様子が観察された。そこでアフィディコリン生合成に必要な4遺伝子を導入した麹菌とこれにトランスポーターも導入した麹菌の培養液からアフィディコリンを抽出し、TLCによって簡易的に生産量を検定したところ、トランスポーターも発現する株のほうがアフィディコリン生産性が向上しているという結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次代謝化合物の生合成系を構成する多数の遺伝子を麹菌宿主に効率的に導入するための自己切断型選択マーカーリサイクリングシステムが完成した。このシステムを利用することにより、容易に多重遺伝子導入ができるだけでなく、多重遺伝子破壊や導入と破壊を自由に組み合わせた実験も可能になった。また、二次代謝化合物の生合成酵素の細胞内局在を明らかにするとともに、糸状菌において初めてプロテアーゼ保護解析を行い、酵素の活性ドメインがオルガネラの内外のどちらに存在するかについても明らかにできた。さらに、トランスポーターの局在も明らかにし、その高発現により最終産物の生産性の向上につながることを示すことができたことから、計画通り進捗しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.複数の生合成遺伝子の安定かつ効率的な染色体導入法の開発:25年度に開発した自己切断型選択マーカーリサイクリング用のプラスミドのさらなる改良を図る。A. nidulansも含めた各種宿主株で使用できるように、選択マーカーや発現用プロモーターを置換したプラスミドや発現カセットを複数搭載したプラスミドを構築する。2.糸状菌細胞内における基質供給経路のオミクス解析:前駆体の生産量が異なる菌株間や変異株におけるオミックス解析を行い、遺伝子発現や細胞内代謝物のプロファイルを比較することにより、前駆体の合成と相関して変化する遺伝子および化合物を同定する。関連遺伝子の人為的発現制御や基質の培地中への添加などにより、基質や前駆体の供給量等のバランスを改善することで生産量の増加を図る。具体的にはテルペン系化合物の生合成に関与するメバロン酸経路の遺伝子の高発現により生産性の向上を目指す。3.二次代謝化合物の生合成マシナリーのオルガネラ局在化に関する細胞生物学的解析:宿主(麹菌)あるいはその近縁微生物由来の二次代謝化合物生合成遺伝子クラスターに存在する遺伝子産物の局在を解析する。緑色蛍光タンパク質との融合タンパク質を用い、その局在を蛍光顕微鏡や細胞分画法により解析する。オルガネラ局在化シグナルを付加した生合成酵素のオルガネラ局在化をもとに構築した生合成マシナリーによる新規化合物の生産を行う。4.生産物の細胞外排出トランスポーターの同定およびその機能強化による生産性の向上:未同定のペニシリンならびにシデロフォアのトランスポーターを麹菌ゲノムから探索してその高発現が生産量に及ぼす効果を検証する。生合成クラスターにすでにトランスポーター遺伝子の存在が明らかになっているロバスタチンについても、トランスポーター高発現の生産量向上への効果を調べる。
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