研究領域 | 電磁メタマテリアル |
研究課題/領域番号 |
22109005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石原 照也 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60168250)
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研究分担者 |
西村 直志 京都大学, 情報学研究科, 教授 (90127118)
冨田 知志 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (90360594)
小野田 勝 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80425727)
澤田 桂 独立行政法人理化学研究所, 放射科学総合研究センター, 特別研究員 (40462692)
大野 誠吾 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70435634)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | メタマテリアル / ベリー位相 / 磁気カイラル効果 / 光整流 / トポロジー最適化 / トポロジカル絶縁体 / マックスウェル応力 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
100nmの金薄膜に無数の穴がランダムにあいた構造をもつナノポーラスゴールドの縦および横方向の光起電力の測定を行ない、横配置では円偏光の向きにより、縦配置ではs偏光とp偏光で起電力の符号が反転することを見出した。銀の薄膜を介したプリズム結合で導波路モードを励起することで、光リソグラフィーが行えることを実証した。量子ドットの発光寿命が層状メタマテリアルによって有意に短くなることを実験的に見出した。2011年度に班間連携として阪大萩行グループとおこなった卍型アンテナからのTHz放射実験の解析が終了し、論文として発表した。 ナノポーラスゴールドのモデルとしてジャングルジム状の簡単なモデルを設定しp偏光入射時の光起電力のシミュレーションを行った。誘電体による電磁波散乱問題の解法としてMaxwell 方程式のPMCHWT定式化とHdiv 内積を用いた離散化による定式化を検討した。 メタマテリアルの可能性の一つに光子系版トポロジカル絶縁体がある。近年、具体的な模型がいくつか提案されたことを受けてその特異な表面モードと応用法について考察した。電子系2次元トポロジカル絶縁体界面における電子波束スピン・ダイナミクスに関する解析結果を踏まえて多重ボルテックス光波束に関する研究へと発展させた。 ミリメートルサイズの銅のカイラル構造とフェライトロッドを組み合わせたメタ分子を用いて、10GHz帯のマイクロ波に対する磁気カイラル効果の直接観測に成功した。 カイラル構造と磁性体の複合物質としてのメタ分子の電磁応答を研究し、カイラリティと磁性とが相互作用しなくても磁気カイラル効果が生じうるという新原理を理論的に示した。マイクロ波に対する磁気カイラルメタ分子を作製し、その現象を実験で観測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に導入したイオンビームスパッタ装置の実時間モニタのための、4検光子ポラリメータを解析するためのLabVIEWプログラムが完成し、作製した多層構造が設計通りに作られたかどうかの確認することができるようになった。これは今後の試料評価にとって、大変重要な進歩といえる。また電磁場シミュレータであるCST MWSを導入し、設計した構造の光応答を実験と比較し、内部電場分布が想定したものになっているかどうか確認できるようになってきた。これまでに研究室で開発した散乱行列法による計算プログラムに比べて、電磁場の様子が自由に把握できることが、今後の設計に大いに役立つ。 ナノポーラスゴールドの光起電力のシミュレーションでは構造を完全に周期的と仮定したときの計算を行う事ができたが構造がランダムなときの考察は次年度に持ち越した。Hdiv 内積を用いた定式化はメタマテリアルなどの低周波問題に有効な解法であることがわかった。 光トポロジカル絶縁体表面を用いた多重ボルテックス光波束生成の可能性を指摘し、その存在可能性と安定性を示した。また、生成過程の解析の前段階として電子系3次元トポロジカル絶縁体表面のモデル化について考察し、実時間・実空間シミュレーション用の模型を考案した。 これまで理論的には予言されてきたが、実験的に観測されなかった磁気カイラル効果を、人工構造を用いることで増強し、マイクロ波領域で観測に成功したことは電磁メタマテリアルにおいて大きな達成であると言ってよい。 計画班をまたいだ共同研究により、理論による示唆、実験での検証および問題の再提起がスパイラル的に進んでいる。特に、磁気カイラル効果が観測できたことで、物性物理での光学応答をメタマテリアルで実現するという新たな分野が理論と実験の両面で生まれつつある。
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今後の研究の推進方策 |
電磁場シミュレータを活用し、顕著な光起電力や光リソグラフィーに利用できるサブ波長電磁場分布を有する構造を設計する。メタマテリアルによる量子ドットの発光寿命の変化、導波路リソグラフィーの実験については、解析を行いすみやかに論文化する。種々の偏光、配置、波長における光起電力の発生を解析し、光起電力を理解するための統一的な枠組みを確立する。 Maxwell 方程式におけるトポロジー導関数の研究をすすめ、メタマテリアルの最適設計への応用を検討する。その計算においてHdiv 内積を用いた定式化を利用する。ナノポーラスゴールドの光起電力のシミュレーションでは構造のランダムさの影響を検討する。 多重ボルテックス光波束の多様性を調べるとともに最終的に生成可能性を示したい。前段階として前述の電子系3次元トポロジカル絶縁体模型の一連のクラスを整理してバルク特性とヘリカル表面モードのスピン状態の対応を明らかにする。また、3次元トポロジカル電子波束の生成過程を調べ光子系への拡張の布石としたい。 今後は磁気カイラルメタ分子を不均一に組み合わせた磁気カイラルメタマテリアルを作製し、直流外部磁場を印加することで、マイクロ波に対する実効的なローレンツ力の観測を目指す。 引き続き実験家との共同研究により、カイラル物質と磁性体との複合メタ物質の新奇な応答の開拓と電気回路への翻訳を行う。さらに、CRLH線路のBerry位相理論を構築することで既存の伝送線理論に新たな解釈を与え、マイクロ波工学と光物性の橋渡しを進める。
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