計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本年度は私たちが発見したPQBP1遺伝子の変異によって生じる精神遅滞・小頭症を主徴とする一群の症候群は、遺伝性精神遅滞の中でも脆弱X症候群、レット症候群に次ぐ頻度の高い重要な疾患であることが明らかになっている。このPQBP1病について以下の成果を上げた。PQBP1遺伝子変異によってPQBP1の発現がほぼ消失したショウジョウバエモデルを作成し、その形態・機能異常を解析した。この結果、PQBP1遺伝子変異ショウジョウバエでは、におい条件付けにおいて、学習の障害が認められること、一方、記憶(短期記憶、麻酔耐性記憶、長期記憶)には異常が見られないこと、形態学的ににおいの投射経路には異常を認めないこと、一方、projection neuron(PN)においては、NMDA受容体NR1サブユニットを含むいくつかの遺伝子発現が低下していること、を認めた。従来、におい条件付けの学習を行っていると考えられてきたキノコ体においては、NR1の発現低下は認めなかった。NR1のRNAiをPN特異的ドライバーによって発現させ、PN特異的にNR1発現を抑制すると、PQBP1遺伝子変異ショウジョウバエと同様な学習障害を認め、一方、記憶には障害を認めなかった。これらの実験においてにおい閾値を検討したが異常は認めなかった。また、PN特異的にPQBP1を発現させると、PQBP1遺伝子変異ショウジョウバエの学習障害は回復した。キノコ体特異的な発現では回復は認めなかった。この際、発生過程でPQBP1発現を回復させても学習障害は治らなかったが、成虫において発現を回復させると学習障害は改善した。さらに、HDACi摂取によって非特異的に遺伝子発現を上昇させると、学習障害が改善することを示した。これらの結果は、PQBP1変異に伴う精神遅滞の学習障害メカニズムを明らかにしたのみでなく、PQBP1機能低下を招くハンチントン病などの認知障害についても示唆を与えるものである。すなわち、これらの疾患でPQBP1機能異常が起きるとシナプス受容体構成分子NR1の発現が低下し、形態異常を伴わない機能異常によって学習・認知障害がおきることが明らかになると同時に、成人においても機能異常は可逆的であり治療に反応しうることを意味する結果であり、今後の治療開発に希望を与える成果といえる。
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