計画研究
amyloid β peptide (Aβ)の老人斑としての蓄積はアルツハイマー病(AD)の主要な病理変化であるが、これまで神経活動がAβ蓄積に与える役割は不明であった。慢性的な神経活動の亢進が軸索終末におけるAβ放出、及び蓄積にどのような影響を与えるか明らかにするため、1回の光刺激で30分以上神経細胞を脱分極させることが可能なstabilized step function opsin (SSFO)を用いて検討を行った。APP tgマウス(A7系統)脳貫通線維路の起始部である外側嗅内皮質にSSFOあるいはEYFPを組み込んだAAVを導入し、1, 3, 5ヶ月間連日光刺激を行い、軸索の投射先である海馬歯状回におけるAβ蓄積を免疫組織化学的に評価した。その結果1, 3ヶ月間刺激したマウスでは有意な変化は認められなかったが、5ヶ月間刺激したマウスでは対側と比べ、刺激側で有意に約2.5倍のAβ蓄積の上昇を認めた。この結果は慢性的な神経活動の亢進がアミロイド蓄積病理に影響を与えることを実証するものである。また本慢性刺激実験の経過中に、SSFOを導入したマウス特異的に刺激直後にてんかん発作が生じることが分かった。これは貫通線維路の慢性的な活動亢進によりキンドリング状態が形成されたものと考えられる。次に慢性的な神経活動の亢進が軸索終末におけるAβ放出に与える影響を検討するために、光遺伝学を用いて外側嗅内皮質を刺激しつつ、in vivoマイクロダイアリシス法を用いて、海馬間質液中を経時的に回収する実験系の開発を行い、構築に成功した。本実験系を用いSSFOを外側嗅内皮質に導入したAPP tgマウス脳貫通線維路を4時間連続光刺激行ったところ、一過性に海馬間質液中Aβ濃度が約24%上昇することが確かめられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度実施する研究計画は1)SSFOを外側嗅内皮質に導入し、貫通線維路を慢性的に刺激するマウスを作出し、神経活動がAβ蓄積に与える役割を明らかにする。2)in vivoマイクロダイアリシス法を用いて脳間質液中のAβ濃度を経時的に計測し、軸索終末からのAβ分泌機構を解明する。の2点であった。このうち1)について、当初の計画以上に進展し、神経活動の慢性的な亢進がAβ蓄積を亢進しうることを世界で初めて実証することに成功した。そこでさらにこの分子機構を明らかにするため、2)で計画していたin vivoマイクロダイアリシス法を新たに1)の慢性刺激実験に応用し、光遺伝学によりAPP tgマウス脳貫通線維路を慢性刺激しつつ海馬間質液中のAβ濃度を経時的に計測する実験系の開発を行い、その構築に成功した。そのため当初予定していた2)の実験はやや遅れた。以上の観点から、達成度は②概ね順調に進展していると判断した。
本年度の光遺伝学を用いた検討から、神経活動の慢性的な亢進が軸索終末におけるAβ蓄積を亢進しうることを実証した。そこで今後、本年度開発した光刺激下におけるin vivoマイクロダイアリシス実験系を応用し、神経活動の慢性的な亢進がAβの産生、分泌にどのような影響を与えるか解明する。またマイクロダイアリシスプローブを介したリバースダイアリシス法を用い、セクレターゼ阻害剤、エンドサイトーシス抑制薬、関連分子のsiRNA投与などを試み、神経活動依存的なAβ産生、分泌を制御するAD治療・予防法の確立を目指す。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Cell reports
巻: 11 ページ: 未定
http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2015.04.017