研究実績の概要 |
本研究では、これまでにstabilized step function opsin (SSFO)を利用した光遺伝学による慢性刺激実験を行い、ADモデルマウスであるAPP tg (A7系統)マウス脳貫通線維路の起始部である外側嗅内皮質にSSFOを導入後5ヶ月間光刺激したところ、その投射先の海馬歯状回におけるamyloid β peptide (Aβ)蓄積が有意に上昇することを見出した。そこで神経細胞の慢性的な活動亢進が、脳内Aβ代謝のどの過程に影響を与えているか検討するため、外側嗅内皮質にSSFOを導入したAPP tgマウスの嗅内皮質を3ヶ月間光刺激し、in vivoマイクロダイアリシス法を用いて海馬間質液を経時的に回収し、そのAβ42濃度を計測した。その結果、光刺激後Aβ42が8時間持続的に最大約40%上昇することが分かった。このような上昇はEYFPを導入したマウスでは認められなかったことから、神経細胞の慢性的な活動亢進が軸索終末からのAβ放出を促進することが実証された。 Aβは前駆体蛋白質APPからβ-secretase, γ-secretaseによる段階切断を受け細胞外に放出される断片である。慢性的な神経活動の亢進がAβ産生を促すか検討するため、APPのβ-secretaseによる切断産物であるsAPPβ量を海馬間質液中で測定し、Aβ産生の程度を評価した。その結果慢性的な光刺激により海馬間質液中のsAPPβ量に変化は認められなかった。これらの結果から、慢性的な神経活動の亢進が、Aβ産生ではなく、軸索終末からのAβ放出を促し、Aβ蓄積病理を促進することを明らかにした (Yamamoto K, et al., Cell Reports, 2015, in press)。 さらにin vivoマイクロダイアリシス法を用い18ヶ月齢のAPP tgマウス脳海馬のAβ蓄積レベルと海馬間質液中Aβ42濃度について検討したところ、両者に負の相関関係があることがわかり、Aβ蓄積は海馬間質液中のAβを引き抜く作用がある可能性が示唆された。
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