計画研究
運動ニューロン疾患における選択性サーキット変性の病態を明らかにするため、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子のCAG繰り返し配列異常延長を原因とする球脊髄性筋萎縮症(SBMA)のモデルマスウにおいて、防御因子と考えられている熱ショック蛋白質(HSP)の発現を調整する転写因子の発現分布を解析した。その結果、熱ショック因子(heat shock factor-1: HSF-1)が多く発現している部位では変異AR蛋白質の蓄積が少なく、HSF-1の発現が少ない部位では変異AR蛋白が顕著に蓄積していることを見出した。次にHSF-1ノックアウトマウスとSBMAマウスを交配し、HSF-1をヘテロで欠損したSBMAマウス(AR-97Q Hsf-1+/-)を作成し解析を行ったところ、このマウスではSBMAマウスでは通常は異常タンパク質が蓄積しない大脳皮質視覚野や肝臓、下垂体に異常タンパク質の蓄積を認め、神経細胞の変性や肝細胞萎縮、肝機能障害をきたすことから、HSF-1の欠損によりSBMAの病変部位が拡大することが示された。AR-97Q Hsf-1+/-マウスではその他の中枢神経系でも異常蛋白質の蓄積頻度が増加し、筋力低下の進行や生存期間の短縮が認められた。また、AR-97Q Hsf-1+/-マウスでは脊髄や肝臓においてHsp70などの発現がmRNA・蛋白質レベルともに抑制されていた。さらに、レンチウイルスベクターを用いてヒトHSF-1をSBMAマウスの脳局所へ投与したところ、投与部位周辺では異常蛋白質の蓄積が減少し、神経細胞の変性も抑えられていることが明らかとなった。以上の検討結果から神経変性の防御因子と考えられているHSF-1がSBMAの病変部位決定に影響を及ぼしていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では運動ニューロンに共通する選択性サーキット変性の病態を明らかにしようとしており、今年度SBMAにおける病変部の選択性に熱ショック蛋白質の誘導が関与していることが示されたことから、順調に進展していると自己評価した。
今後は筋萎縮性側索硬化症(ALS)など他の運動ニューロン疾患の病態部位選択性についても解析を進めていく予定である。また、ALSとSBMAに共通する病態カスケードの解明とそれを標的とした治療法の開発についても進めていく予定である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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