計画研究
神経変性疾患は、ある特定のニューロサーキット(神経回路)が選択的脆弱性を有し、変性することによって生じる難治性疾患である。神経変性疾患の病因病理は神経細胞機能障害、構造異常たんぱく質蓄積、神経細胞死、非神経系細胞による神経変性加速により成立する。本計画では、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS 細胞)作製技術を応用して、最終的には、それらの過程のうち、最も初期の変化である神経細胞機能障害を再現する神経変性疾患モデルの開発をめざす。神経変性疾患で変性する神経細胞を、ウイルスベクターによってイメージングを行うことを試みた。筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)で変性する下位運動神経細胞のマーカーとなりうる転写因子であるHB9のプロモーター制御下にEGFPを発現するレンチウイルスベクター(Egawa et al., Sci Transl Med, 2012)、アルツハイマー病で変性する大脳神経細胞をシナプスマーカーであるsynapsinプロモーター制御下にEGFPを発現するレンチウイルスベクター(Kondo et al., Cell Stem Cell, 2013)を用いることによってイメージングに成功した。また、これまで上位運動神経細胞マーカー遺伝子をレポーター遺伝子として、その遺伝子のプロモーター制御下にEGFPを導入したヒトiPS細胞を作製した。この細胞を用いて、大脳神経細胞への分化誘導を行い、in vitroにおける当該遺伝子の発現時期の経時的検討を行った。更にEGFP発現細胞をFACSにより純化し、マイクロアレイ解析を行ったところ、上位運動神経細胞特異的な遺伝子群の同定を行った。今後、各種新技術を用いて、神経変性疾患における神経機能障害・回路異常病理の解明を行う。
2: おおむね順調に進展している
これまで、神経変性疾患iPS細胞を用いて、変性する神経細胞のイメージングに成功している(Egawa et al., Sci Transl Med, 2012; Kondo et al., Cell Stem Cell, 2013)。また、ヒトiPS細胞への遺伝子ノックインという新技術によって、上位運動神経細胞マーカー遺伝子をレポーターとするヒトiPS細胞の作出を行った。さらに、ヒトiPS細胞から神経細胞へのdirect conversionによる分化方法を確立し、迅速なニューロサーキットとシナプス形成に成功している。
線維芽細胞から神経細胞を作製するdirect conversion の技術を応用してマウスES細胞/iPS 細胞から迅速に成熟運動神経細胞を作製する技術を確立している。この技術をヒトiPS 細胞に応用し、ヒト下位運動神経細胞を作製する。同様に、上位運動神経細胞を作製する。ヒト iPS 細胞から作製した上位および下位運動神経細胞を用いて、ニューロサーキットの再現を行う。作製した運動神経細胞にウイルスベクターを用いて、各種イメージング用コンストラクトを導入し、上位・下位運動神経細胞の ネットワーク形成を解析する。さらに、同様の技術を用いて、ALS iPS 細胞から上位・下位運動神経細胞を作製し、in vitro でニューロ サーキットの再現を試み、分子生物学的解析、direct conversion 技術と合わせて、神経変性疾患、特にALSにおける神経機能障害・回路異常病理の解明を行う。上記、direct conversion技術を含め、これまで蓄積してきたヒト神経変性疾患iPS細胞を用いた分化誘導技術#8226;イメージング技術を、班員間共同研究を通じて、他班員の標的神経疾患の解析への利用をすすめ、本領域の進展をめざす。
<報道>・iPS使いALS新薬 京大グループ 有効な物質特定 難病研究進化を発見. 読売新聞 page 1(2012.8.2)/・難病ALS治療に道 京大、iPSで薬候補発見. 日本経済新聞 朝刊page 1(2012.8.2)/・iPS細胞で病態再現 京大など アルツハイマー病患者から作製 神経細胞内に凝集物蓄積. 京都新聞 朝刊 page 1 (2013.2.22)
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