研究実績の概要 |
本研究では、細胞の自発運動のシグナル生成に働くイノシトールリン脂質代謝系に注目し、構成分子による細胞内自己組織化の仕組みを多階層にわたる定量計測と数理モデル構築により解明した。特にPTEN分子に着目し、1分子レベルでの確率的特性と自己組織化ダイナミクスの関係、さらに細胞運動のゆらぎの関係を定量的に解析した。PTEN分子の細胞膜結合反応の1分子解析により、C2ドメインの重要性が明らかになった(Yasui et al., 2014)。この結合調節の仕組みは、この代謝系の興奮性(Nishikawa et al., 2014)を適度な強度に保つことに寄与しており、その結合性の変調により細胞の自発的極性形成、および、細胞の自発運動動態のゆらぎが変調されることが明らかになった。こうした定量計測に基づき、イノシトールリン脂質代謝系の自己組織化モデル(Shibata et al., 2013)と細胞運動モデル(Nishimura et al., 2012)を統合した数理モデルを構築した。これにより、1分子レベルでの確率的特性と細胞レベルでの自発運動動態の関係を定量的に議論できるようになった。こうした成果に加えて、新しい1分子解析法を開発した。(1)PTENが細胞膜上をhoppingする現象を発見した。これはPTENと細胞膜の相互作用が数十ミリ秒の間隔で連続して起こるもので、タンパク質の細胞膜局在の新しい仕組みといえる。同じ分子が細胞膜への再結合する確率密度を時空間的に算出する解析法を開発した(Yasui et al., 2014)。(2)量子ドットを用いた多色1分子計測により、従来よりも高密度下での1分子追跡が可能になった(Komatsuzaki et al., 2015)。これらの成果は本研究で開発した定量イメージングを応用したものであり、当初計画で想定した研究成果を超えるものである。
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