研究領域 | 動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成 |
研究課題/領域番号 |
22111006
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宮田 卓樹 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70311751)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経上皮 / エレベーター運動 / 神経前駆細胞 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
神経前駆細胞は脳原基の壁のapical面からbasal面までをつなぐ伸びた形をし,細胞周期進行に応じて核・細胞体を動かす(interkinetic nuclear migrationと呼ばれる [INM と以下略]).最近の研究によって,個々の前駆細胞のINMをライブ観察できるようになり,微小管やアクトミオシンの関与が分かってきたが,では,そうした個別の動きがどのように集団全体で整えられ,調和的に神経上皮形態が維持されているのか,分かっていない(Miyata, 2008).当領域全体で問う「ゆらぎ(ランダム)成分としての動きが組織レベルでの形態的・機能的な調和にどう貢献するか」という課題のモデルケースの一つとして,神経上皮の中での動きが,秩序だった脳形成に対してどのような意味をもっているのかを明らかにすることが重要である. 本年度の研究では,まず神経上皮の中の全細胞核の動きを平均二乗変位量 (Mean-Squared Displacement:MSD)法によって分析し,一定の継続性・直線性をもって動く核と確率論的な動きをする核とが混在・共存していることが分かった.そして,直線的な動きにはbasal側に伸びた細胞形態が大きくかかわるという事が,basal突起を奪う実験によって明らかになった.一連の解析を通じて,一部のものに「優先搭乗券」(basal突起)を与えることで狭い空間における過剰混雑を防ぐ「時差出勤」のような工夫がなされていることが読み解け,INMが脳形成の秩序にとって不可欠であることが判明した.さらに神経前駆細胞が過剰混雑という力学的負荷を感知し,反応する事も分かった.それにあたり領域内外の研究者と共同で新規の力学的実験や数理モデル化を行なった(論文の投稿を果たし,レフェリーからの要求に応じての改訂作業を行なっている).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経上皮の中の細胞の動きをとらえるための観察系を,従来にはなかった時間空間分解能で築くことに成功した.また,本来の動きを無くす種々の実験系を構築することを通じて「動きの意味」の一端を明らかにした.一連の解析を通じて,一部のものに「優先搭乗券」(basal突起)を与えることで狭い空間における過剰混雑を防ぐ「時差出勤」のような工夫がなされていることが読み解け,INMが脳形成の秩序にとって不可欠であることが判明した.さらに神経前駆細胞が過剰混雑という力学的負荷を感知し,反応する事も分かった.それにあたり領域内外の研究者と共同で新規の力学的実験や数理モデル化を行なった(論文の投稿を果たし,レフェリーからの要求に応じての改訂作業を行なっている).
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今後の研究の推進方策 |
期間前半で構築した「神経上皮内の全細胞(核・細胞膜)の追跡」系にさらに細胞周期,細胞分化度,上皮のアドヘレンスジャンクションのライブ可視化を組み合わせて,神経上皮内の「不均一さ」とその動態・移行様態を丹念に把握する.一方で,同じく期間前半でとらえた神経上皮細胞の力学的刺激への対応性(感知,脱上皮行動など)の分子機構を探るとともに,力学的状況の把握と機械的実験によって「動きの意義」について,細胞分化,組織構築に注目して理解を果たす.動き,力学要因,分化度など個別パラメーターごとから,やがて順次,これらを総合的に含有するような数理モデルの構築,バージョンアップをめざす.
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