本研究は組織の形成単位としての上皮の形態形成機構を、細胞の力学的性質とそのゆらぎに留意して追求する事を目的とし、陥入時に作用する主要な力を同定し、それらを細胞内、細胞間で制御する分子機構を解明する。今年度はショウジョウバエの気管前駆細胞が外胚葉から陥入するプロセスをモデル系として用い、以下の結果を得た。 1)細胞動態を記録するために細胞膜、細胞核、アクチン繊維、微小管、カドヘリン、アピカル分子Par6などをマーカーとしてコンフォーカル顕微鏡による経時観察を二重標識の各種組み合わせで行い、詳細な4次元のイメージデータを取得した。2)平面方向とbasal方向への力を協調させる分子機構の同定をめざしレーザーによる微小手術実験を行った。その結果、basal方向への動きに拮抗する力がアピカル面とアドヘレンスジャンクションに存在することを示した。3)突然変異体および薬物添加実験により、微小管、アクチン、ミオシン、Rhoキナーゼなどが力の発生を細胞形態の制御に及ぼす効果を検討した.その結果、急速な陥入運動の引き金としての細胞分裂の関与を見いだした。4)これらの定量データに基づいた力学モデルを作成し、三次元多面体モデルを用いて陥入過程のコンピューターシミュレーションを行った(研究協力者 本多久夫兵庫大学教授との共同研究)。 今後は画像データを元に細胞形態の動的変化を測定し、数理解析によって組織変形を促す力の推定を行う予定である。また実験データに基づいてシミュレーションの精度の向上を図る。
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