研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22112005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高倉 伸幸 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80291954)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / がん幹細胞 / 血管 / ストロマ細胞 |
研究実績の概要 |
がん細胞に直接作用する治療では、がん根治は困難を極めている。一方で、血管新生を標的とした治療薬の効果が臨床的に証明されてきており、がん組織の微小環境を標的とする治療法開発の重要性が唱えられている。しかし、血管阻害による低酸素・低栄養が、がんの悪性化を誘発する恐れについても議論されてきているのも事実である。このことから、腫瘍環境要因の質的変化に影響される、がん細胞形質変化の詳細な分子機序の解明、つまり、がん細胞と腫瘍環境細胞との細胞間相互作用の解明が、新規治療法開発にとって必要である。従来の研究において、株化したSMAおよびPDGFRbetaを発現するストロマ細胞を低酸素環境で培養することで発現が亢進する分子を単離し、CD44を同定した。担がんモデルマウスにおいて、血管新生抑制剤を投与すると、血管数の減少とともに低酸素領域でのストロマ細胞におけるCD44の発現も亢進することが確認された。CD44ノックアウトマウスの担がんモデルからストロマ細胞株を樹立して、種々のがん幹細胞モデルにおいてCD44の有無においてがん幹細胞性の維持について試験管内で解析した。予想通り、CD44を欠損するストロマ細胞は、野生型マウス由来ストロマ細胞と比較して、がん幹細胞のスフェア形成能を維持できないことが判明した。またCD44欠損ストロマ細胞にCD44遺伝子の発現プラスミドを遺伝子導入することで、がん幹細胞の幹細胞性が維持されるようになった。つまりストロマ細胞上のCD44が実際にがん幹細胞の未分化性維持に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍環境細胞であるストロマ細胞によるがん細胞のがん幹細胞性の維持がストロマ細胞に発現するCD44によって誘導されることが明らかにされつつ有る。がん細胞によるがん幹細胞化に関与することが予想された分子の解析については、候補とした遺伝子の強制発現や、遺伝子ノックダウンによってもがん細胞に対する影響が観察されず、本研究に関しては断念せざるを得なかった。しかし、新たに腫瘍血管に対する、血管成熟化に関わる分子が発見されこちらの研究が旺盛にすすみつつ有り、全体としてはおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
ストロマ細胞に発現するCD44の機能として、試験管内だけでなく、個体内の機能を解析する。具体的には、CD44遺伝子ノックアウトマウスによる担がんモデルにおいて、腫瘍内のがん幹細胞の発生および維持に関する解析を行う。また、血管成熟化にかかわることが明らかになってきた分子に関しては、ノックアウトマウスの準備と、血管新生に対する機能解析をとおし、いかに血管成熟に関わるのかを明らかにする。そして、血管成熟化とがんの悪性度との関係を明らかにする。
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