研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22112007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
HEISSIG Beate 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (30372931)
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キーワード | セリンプロテアーゼ / マトリックスメタロプロテイナーゼ / リンパ腫 / Egfl7 / 造血因子 / 血管新生因子 / プロセシング / 骨髄由来細胞 |
研究概要 |
がん病態の形成過程におけるがん細胞周囲の組織微小環境の重要性が示唆されている。組織微小環境は細胞成分と細胞外マトリックスとで構成されており、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)やセリンプロテアーゼ群に代表されるプロテアーゼは、細胞外成分としてがん細胞のみならず骨髄由来細胞の各種細胞の生体内動態を制御している。今年度の研究で、代表者らは、生体中のMMPの活性化を起点とした一部の造血因子のプロセシングの促進と共に、分化・増殖、そして骨髄より動員される骨髄由来のCD11b陽性F4/80陽性細胞が、一部の血液腫瘍細胞周囲の微小環境中に集簇し、血管新生因子やさらなるMMPの産生を通じて、これらの腫瘍増殖に関与することを明らかにした。さらに代表者らが神戸学院大学との共同研究で見出された新規プラスミン阻害剤は、各種プロテアーゼの活性化を上流より阻害し、一部の血液腫瘍の増殖を抑制することを報告した。このことは、血液凝固・線維素溶解系因子群の血液腫瘍性疾患病態における新たな機能ばかりでなく、腫瘍増殖における骨髄由来細胞の重要性を示している。さらに代表者らは、血管内皮由来の分泌因子で、かつ血管新生因子の一つと目される血管の管状構造構築を制御するEGF-like domain7(Egfl7)が、骨髄内の幹細胞を含む造血系細胞の分化・増殖、そして各種骨髄由来細胞の動員にも寄与することを実験で明らかにした。現在、Egfl7の受容体候補分子との相互作用と生体内造血における意義について精査中であるが、これらの事象は、いずれも骨髄由来細胞を介した血管新生、そして腫瘍増殖機構の存在を示唆していると言えよう。骨髄由来細胞、そして各種プロテアーゼ活性を起点としたその動員機構は、がん治療の新しい標的として機軸となる可能性を有している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究主題とした骨髄由来細胞と血管新生、ないしは腫瘍増殖との関連性を明らかにしたのみならず、これを標的とした新しい治療法、創薬標的を提示したことにより、今後のトランスレーショナルリサーチ研究の基盤構築に成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
1.ヒト血液腫瘍病態に近いモデルを使用して、本研究で見出されたプラスミン阻害剤の臨床上の有用性を確認する。さらに薬剤投与量の増減により、至適投与量、毒性、副作用についてさらに精査を進める。また血液腫瘍以外の固型がんでの有用性を精査する。 2.Egfl7/Egfl7受容体候補分子シグナルの実体を明らかにし、生体内造血における機能解明を行う。さらにがん病態特に血管新生における重要性を明らかにし、治療標的としての有用性を探る。
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