研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22112007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Heissig Beate 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30372931)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラスミン / マトリックスメタロプロテイナーゼ / 血管新生 / 細胞外ドメイン分泌 / 造血因子 / HIF-1 / PAI-1 / Egfl7 |
研究実績の概要 |
がん病態の形成過程におけるがん細胞周囲の組織微小環境の重要性が示唆されている。組織微小環境は細胞成分と細胞外マトリックスとで構成されており、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)や血液線維素溶解系(線溶系)に代表されるセリンプロテアーゼ等の各種プロテアーゼは、細胞外微小環境#8212;マトリックスの主要な構成分子としてがん細胞のみならず骨髄由来細胞の各種細胞の生体内動態を制御している。今年度の研究で、代表者らは、虚血あるいは低酸素環境下に曝露されたマウス生体組織中で、線溶系を亢進するプラスミノーゲンアクチベータ(PA)の発現が増強すると共に、これに拮抗すると考えられるPA抑制因子(PAI-1)の発現と血中濃度の上昇を確認した。これを基礎として代表者らは、東北大学との共同研究によりPAI-1阻害剤をマウス生体に投与することにより、組織型PAの産生と各種MMPの活性化が惹起され、さらにこれに伴って顆粒球コロニー刺激因子をはじめとする造血因子の分泌供給が促進されることが判明した。またPAI-1阻害剤のマウス生体への投与は、虚血壊死組織中に好中球を中心とした骨髄由来細胞を動員することにより、各種血管新生因子の組織内供給を誘導し、結果的に血管新生と組織再生を促進することを明らかにした。加えて代表者らは、今年度の研究で、各種がん組織中で高発現が認められる膜型MMP(MT1-MMP)が、MMPの相互活性化、さらに各種造血制御分子の細胞外ドメイン分泌及びこれらの遺伝子発現調節によって骨髄由来細胞動態を制御していること、血管新生因子EGF-like domain 7(Egfl7)が造血系細胞分化に関与していること等を明らかにした。これらの研究成果は、腫瘍増殖、血管新生における骨髄由来の造血系細胞動員の意義と線溶系を起点とした新しい制御機構の存在を示唆したものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
血液がん-造血器悪性腫瘍の増殖・進展と血液線維素溶解系をはじめとするプロテアーゼ活性、そして骨髄由来細胞動員との連関を見出し、論文発表に至っただけでなく、これに関連した新たな造血・血管新生機構の解明、さらに昨年度までの研究を基礎とした、がんに対する新しい治療法の可能性も見出せたことから。
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今後の研究の推進方策 |
1. 今年度までの研究成果を基礎として、血液がん#8212;造血器悪性腫瘍増殖に際し、骨髄から腫瘍組織あるいはその周囲に動員され、機能する細胞群、分泌され機能する生体因子、プロテアーゼをより詳細にプロファイリングし、その相互作用の詳細を明らかにする。 2. 血液がん#8212;造血器悪性腫瘍細胞に対する細胞外微小環境の構成分子と考えられた各種プロテアーゼの活性化、骨髄由来細胞動員と各種病態・病勢との連関についてヒト検体で確認していく。 3. 免疫不全マウスを使用したヒト細胞移植モデルを作製し、本研究で見出されたプラスミン阻害剤の臨床上の有用 性を確認する。さらに薬剤投与量の増減により、至適投与量、毒性、副作用についてさらに精査を進める。
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