転移性がん細胞は異常な運動能・接着能・細胞外基質の破壊能など様々な性質を兼ね備えているが、これに加え転移先臓器の微小環境ががんの転移巣形成に重要な役割を果たしていることが知られている。本研究課題では、研究代表者が有している血行性転移モデルを用いたin vivoスクリーニングにより同定・命名したMerm1の解析を中心に、転移関連がん微小環境を解明し、その微小環境を制御するがん転移抑制剤開発につなげることを目標として研究を進めている。高転移性メラノーマ細胞より調製したcDNAライブラリーを低転移性CHO細胞に遺伝子導入し、この遺伝子導入細胞を尾静脈より移植した結果生じた肺転移結節を回収し、そこに含まれると予想されるがん転移促進分子を解析し同定された遺伝子がMerm1である。 この遺伝子は多臓器障害を特徴とするウィリアムズ-ビューレン症候群で欠失している7番染色体の7q11.23上に載っている遺伝子であるが、疾患、特にがん化との関連は報告されていない。本年度、CHO細胞にMerm1を過剰発現させた細胞株を樹立しin vivoにおけるがん転移促進活性を検討した結果、Merm1発現に伴い、肺や肝臓などへの血行性転移が促進されることが確認された。さらに、Merm1の一次アミノ酸配列より類推されているメチルトランスフェラーゼ活性を欠失させた変異Merm1遺伝子を作製し、同様にCHO細胞に高発現させたが、この変異Merm1遺伝子導入細胞株にはがん転移促進活性が認められなかった。また、組織アレイを用いてMerml1発現腫瘍の探索を行なった結果、浸潤能が高い浸潤性乳管癌においてMerm1の発現が高いという正の相関が認められた。よって、Merm1のメチルトランスフェラーゼ関連活性が、何らかの形でMerm1のがん転移促進能に関わっていることが示唆された。
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