研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22112008
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
藤田 直也 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター基礎研究部, 部長 (20280951)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん転移 / 微小環境 / Merm1 / 血小板凝集 |
研究実績の概要 |
研究代表者はこれまでに、新規がん転移促進遺伝子Merm1を同定し、Merm1はがん微小環境により誘導されるがん細胞の細胞死を抑制することによりがん転移を促進することを報告してきた。正常メラノサイトおよび皮膚扁平上皮がん細胞株を収集し、Merm1発現を検討したところ、これら細胞株では発現が低いことを見いだした。そこで。これら細胞株にMerm1遺伝子のプロモーター部位をルシフェラーゼ遺伝子上流につないだレポーターコンストラクトを遺伝子導入した細胞株を作製した。また、プロモーター解析により、がんの浸潤に関係するとの報告がある転写因子がMerm1転写に関わる可能性を見いだした。実際に、この転写因子結合部位の変異あるいは除去により、レポーターコンストラクトの活性が減少すること、さらにこの転写因子のノックダウンによってもレポーターコンストラクトの活性が減少することを確認した。また、Merm1発現が認められない皮膚扁平上皮がん細胞株では、この転写因子の発現が認められないことを見いだし、Merm1発現がこの転写因子により制御されていることが見いだされた。 さらに、Merm1の発現を抑制する阻害剤のスクリーニングを行ない、5種類のヒット化合物を得ることに成功した。そこでヒット化合物の類縁体を収集して再スクリーニングを行なうことで、構造活性相関の検討を進めている。 血小板凝集を引き起こすある種のがん細胞において、血小板凝集を抑制する抗血小板薬処理により、増殖抑制ならびに浸潤抑制が引き起こされることを見いだしている。がん微小環境における血小板の意義を明確にするために、血小板凝集に伴い放出される因子の同定を、サイトカインアレイ等を用いて行なった。あるサイトカインが血小板による増殖促進ならびに浸潤促進に関与していることを見いだしたため、中和抗体による確認実験を現在行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Merm1発現と転写因子の関連を証明できただけでなく、がん微小環境における血小板の関与を示唆する血小板由来因子の同定に成功している。しかし、Merm1の転移における役割を明確にするために樹立を進めているMerm1転写に関わる転写因子のノックダウン細胞株は、シングルコロニーになかなかならない等の問題があり、この転写因子のMerm1転写における役割を完全に証明したとは言えない状況である。そのため、②と自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
がん微小環境との相互作用を介したがん転移促進機構の解明に向けて、本研究課題では(1)脈管内での細胞生存に関わるMerm1遺伝子と、(2)血小板との相互作用を介したがん細胞の増殖・がん微小環境変化の2点に焦点を絞って研究を進めている。(2)の血小板との相互作用を介したがん転移の促進機構は、世界的にも注目されて数多くの論文が近年報告されている。研究代表者はすでに、がん転移に関わる血小板凝集促進因子の同定や阻害剤の開発を行なっており、これらツールを使用することにより、がん微小環境における血小板の関与をより詳細に明らかにしていく予定である。
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