研究代表者らはこれまでに、独自の転移モデル系を用いることで、新規がん転移関連遺伝子(PodoplaninやMerm1など)を同定してきた。そこで本年度は、 (1)宿主微小環境を構成する血小板が、がんの増殖・転移をどのように促進しているのか、その分子機構の解析を行なった。血小板凝集促進因子Podoplaninを発現しているがん細胞を用いて検討した結果、血小板凝集を引き金として血小板よりPDGFが放出され、そのPDGFが腫瘍増殖を促進していることを見出した。しかし、PDGF受容体阻害剤あるいはその下流のAkt阻害剤では、血小板凝集を引き金とする腫瘍増殖を十分に抑制できず、血小板凝集時に放出される他の増殖因子も腫瘍増殖に関わっている可能性が示唆された。よって、血小板凝集自体を阻害することが腫瘍増殖の抑制にはより効果的である可能性が示唆された。これまでにスクリーニングして得られたPodoplanin阻害低分子化合物を元に合成展開を行うことで、これまでとほぼ同じ活性を示す6種類のヒット化合物を取得することに成功した。 (2)Merm1のプロモーター部位に、p53/p73ファミリー転写因子が結合するコンセンサス配列が存在したため、p53/p73ファミリー転写因子によるMerm1発現制御の可能性を検討した。残念なことに、p53阻害剤の結果とレポータを用いた検討結果が一致せず、Merm1阻害剤候補としてのp53阻害剤の更なる検討は断念した。Merm1の出芽酵母ホモログであるBud23がリボソーム合成に関わるとの報告が最近なされたことから、Merm1との相互作用因子を質量分析計で解析したと。その結果、特にリボソーム合成に関わる因子が多数Merm1に結合し、Merm1の安定化に寄与していることを見出した。よって、この相互作用がMerm1阻害剤開発の際の新たな分子標的となることが示唆された。
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