研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22112009
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
近藤 科江 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (40314182)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 低酸素 / HIF / バイオセンサー / タンパク質製剤 / 骨転移 |
研究実績の概要 |
平成23年度までに、肺転移優位のがん細胞から、骨転移優位のがん細胞を単離してきた。この細胞を左心室から移植することで樹立した骨転移モデルは、2週間程度で造骨性骨転移がほぼ全身の骨におこり、その経緯を光イメージングでモニタリングできる。この骨転移モデルを用いて、以下の解析を行った。 (1)骨転移優位の表現型に変化する過程でがん細胞に起こった遺伝子発現変異をマイクロアレイで網羅的に解析して、骨転移に重要な因子を検索し、骨転移との関連性を調査した。いくつかの候補遺伝子に着目して解析を進めている。 (2)本モデルにおける骨転移のメカニズムを解明する目的で、まずHIF活性について検討した。その結果、がん細胞は骨髄の生理的酸素濃度でHIFの活性化がみられ、骨転移部位のHIF活性は転移したがん細胞の増殖と共に急激に上昇する事が分かった。また、溶骨を誘導するRANKLを移植前に投与する事で、骨転移部位の増加や転移がんの増殖が早まったことから、造骨性転移においても、溶骨による転移促進効果が重要である事を示す事ができた。またこのモデルにおいては、骨髄内の生理的低酸素によりIGF-1/IGFRシグナルが活性化され、HIFの発現を上昇させるとともに、がん細胞の増殖を促進する事がわかった。 これらの結果は、がん細胞が骨に転移する過程で、転移先の酸素分圧や増殖因子などの微小環境が重要な役割を果たしている事を示すと同時に、前年度までに樹立した転写因子活性を光イメージングでモニタリングできるがん細胞を用いて、今後より詳細な転移機構とがん微小環境の関連を解析する事により、骨転移を抑制するための標的因子を同定し、骨転移の予防や治療のための薬剤開発に結び付く可能性を強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍内の低酸素や増殖因子により変化するがん微小環境は、がんの悪性化や治療不良に深く関わっており、がん微小環境で特異的に活性化する転写因子HIF、NF-κB、TGF-βに関与するシグナルのクロストークが悪性化に重要な働きをしている事が示唆されているが、未だに詳細は不明である。このような背景から、がん微小環境におけるがん化のメカニズムに関する生物学的解析や、シグナルクロストーク解析に基づく創薬研究は、難治がんに対する抗がん剤開発に重要と考え、まずは骨転移を対象として、標的因子の同定とそれらに対する抗がん剤のデザインを本研究の目標として掲げ研究を遂行している。 平成24年度までの研究で、(1)動物モデルの構築、(2)腫瘍内微小環境で活性化することが報告されている因子の活性をモニターできるがん細胞の樹立、(3)骨転移に特異的に関与する遺伝子検索のための網羅的解析、などを行っており、標的因子の同定、それに対する抗がん剤のデザインなど、目標に向かって当初の計画に沿って着実に研究が進んでいる。 これらの結果を受けて、研究期間内に目的を達成する事が可能であると考えられるため、上記自己点検による評価は妥当であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究で、(1)動物モデルの構築、(2)腫瘍内微小環境で活性化することが報告されている因子の活性をモニターできるがん細胞の樹立、(3)骨転移に特異的に関与する遺伝子検索のための網羅的解析、などを行ってきた。それらの結果を受けて、今後は、標的因子の同定、それに対する抗がん剤のデザインなど、計画通りに進める予定である。特に標的候補として選択してきた因子の解析を、モデル動物や樹立したがん細胞を用いて行う事で、新規標的因子の同定、それらに対する抗がん剤の開発への道筋ができると期待される。
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