研究実績の概要 |
本研究では、腫瘍内低酸素環境での厳しい環境へ適応する過程で、細胞に起こる様々な変化を遺伝子発現レベルで制御している転写因子HIFのがん悪性化機構への寄与について、マウスモデルを用いて生体レベルで解析し、新たな微小環境関連の治療標的を探索する事を目的として主に以下の研究を実施した。 (1)腫瘍内微小環境におけるシグナルクロストークの解析:HIF, NF-κBやTGF-β活性の変化を発光で経時的にモニタリングできるマルチレポーターシステムを保持した細胞株を樹立し、転移がんモデルを用いて、ゾレドロン酸投与による骨転移巣におけるHIFとNF-κB活性変化のモニタリングを行った。ゾレドロン酸投与によりHIFとNF-κB活性は、ともに減少したが、変動バターンが異なった。今後、治療効果と両因子活性の変動を解析することで、より良い治療法の開発につながる事が期待される。 (2)骨転移治療標的因子の同定:25年度までに、肺転移優位から骨転移優位の表現型を示すがん細胞を単離し、がん細胞の特性解析を行った。更に、肺転移しなくなったがん細胞から、肺高転移株が得られたことから、両がん細胞の転移能特性を調べたところ、肺高転移株が肺の血管から肺組織に侵入する過程に大きな変化がある事が分かった。また、遺伝子発現の違いをマイクロアレイで網羅的に解析したところ、HIFに関連の深いある転写因子の発現レベルが大きく異なっていた。更に、肺高転移株のこの転写因子発現をノックアウトしたところ、肺転移能が大きく低下した。この転写因子により制御される下流の因子を探る事で、新たな骨転移の治療標的の同定が可能になると期待される。 (3)最終的な目標である新規治療ペプチドについても、ペプチドライブラリーの構築、標的スクリーニング法の構築が完了し、当初の目的である治療標的に特異的なペプチドのデザインを行うことができた。
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