肺がんと胸膜中皮腫(以下中皮腫)は極めて予後不良の呼吸器悪性腫瘍であり、その死亡率減少はわが国のがん医療の急務の命題である。肺がんにおいては上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブやエルロチニブが特定の症例群に著効するが、ほぼ例外なく獲得耐性により再燃することが臨床上最大の問題となっている。 本研究では、腫瘍微小環境としての線維芽細胞や血管内皮に着目し、その特性を分子生物学的に理解し、画期的な治療効果が得られる新規治療法の開発を目指している。 今年度は、腫瘍微小環境の線維芽細胞が産生する肝細胞増殖因子(HGF)が、ゲフィチニブ耐性克服薬として期待されている不可逆型EGFR-TKIに対しても耐性を誘導することを明らかにした。さらに、抗HGF抗体などでHGFの活性を阻害することによりHGFによる耐性が解除されることを示した。また、HGFは受容体であるMetに結合し下流シグナルを活性化しEGFR-TKI耐性を誘導することを既に報告しているが、Met下流のPI3Kを短時間でも強力に阻害することによって、HGFによる耐性を解除できることを明らかにした。線維芽細胞が産生するHGFがEGFR-TKI耐性を誘導する肺がんの皮下移植モデルにおいても、ゲフィチニブとPI3K阻害薬を併用することでPI3Kを強力に阻害し、耐性を克服できることを示した。 これらの研究成果は、微小環境が産生するHGFがさまざまなEGFR-TKIに対して耐性を誘導することや、HGF-Met経路を遮断することで耐性を解除できることを示したものであり、今後の耐性克服治療の臨床開発において有用なエビデンスである。
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