研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22112010
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
矢野 聖二 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30294672)
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研究分担者 |
鈴木 健之 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30262075)
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キーワード | 肺がん / 胸膜中皮腫 / 線維芽細胞 / HGF / FGFR1 / PDGFR / 薬剤耐性 / 血管新生 |
研究概要 |
癌をとりまく微小環境は腫瘍の増殖や薬剤感受性に深く関与しており、癌と微小環境の相互作用を断ち切れば画期的な抗悪性腫瘍薬の開発が可能であると考えられる。胸膜中皮腫には様々な細胞が微小環境を構成する因子として存在する。今回、線維芽細胞に着目し中皮腫細胞との相互作用を検討し、相互作用を阻害するマルチキナーゼ阻害薬の治療効果を同所移植モデルにおいて検討した。さらに、胸膜中皮腫51症例の腫瘍検体を用い腫瘍内線維芽細胞数および標的因子発現を検討した。ヒト胸膜中皮腫細胞株MSTO-211HをSCIDマウス胸腔に同所移植すると、線維芽細胞が多数集積した胸腔内腫瘍が形成された。MSTO-211HはFGF-2やPDGF-AAなどの線維芽細胞遊走因子を発現し、線維芽細胞株MRC-5の増殖、運動能、HGF産生能を増強した。MRC-5が産生するHGFはMSTO-211Hの増殖および運動能を増強した。よって、中皮腫細胞と線維芽細胞は悪性サイトカインネットワークを形成し進展を制御していると考えられた。悪性サイトカインネットワークを断ち切るために、FGFR1およびPDGFR阻害活性を有するTSU-68やE7080に着目した。TSU-68やE7080は上記同所移植モデルにおいて、胸腔内腫瘍への線維芽細胞集積を抑制し腫瘍増大を著明に阻害した。さらに、胸膜中皮腫症例の腫瘍の53%に線維芽細胞が集積しており、FGF-2,PDGF-AA,およびHGFを高頻度で強発現していた。 以上より、胸膜中皮腫は臓器微小環境と悪性サイトカインネットワークを形成し腫瘍進展を促進しており、このサイトカインネットワークが胸膜中皮腫の新しい治療標的となることが示唆された。 一方、肺がんの浸潤線維芽細胞もHGFを産生し分子標的薬感受性を制御している。HGFの受容体であるMetの阻害薬により分子標的薬の感受性をあげられることも明らかにした。来年度には、Met阻害薬の血管新生に及ぼす影響も検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺がんについて 1.肺がんの浸潤線維芽細胞のHGF発現機構の解析:HGF発現増強因子と抑制因子を検討したが特定するには至らなかった。 2.線維芽細胞の産生するHGFによるシグナル伝達の解析と最適の阻害法の開発:METや下流のPI3K阻害がHGFによるシグナルを効率よく阻害することを明らかにした。 3.HGFによるEGFR阻害薬耐性の克服における腫瘍血管阻害の治療効果検討:HGFにより血管新生が促進されることを明らかにし、MET阻害薬によりそれが阻害されるという結果が得られつつある。 中皮腫について 1.中皮腫細胞株の造腫瘍性および増殖を促進する微小環境因子の同定:HGF,FGFR,PDGFRが中皮腫の増殖を促進する因子であることを明らかにした。 2.中皮腫の微小環境細胞を利用した分子標的治療の開発:、FGFR1およびPDGFR阻害が中皮腫の進展を阻害しうることを明らかにした。 HGFの発現増強因子と抑制因子の特定や血管新生に及ぼす影響の解明までには至らなかったため、来年度検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
肺がんにおける線維芽細胞のHGFの発現増強因子と抑制因子の特定や血管新生に及ぼす影響の解明を行う。 また、中皮腫の腫瘍抗原の同定及び抗体による治療の確立を目指した研究を展開する。
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