研究領域 | 細胞機能と分子活性の多次元蛍光生体イメージング |
研究課題/領域番号 |
22113005
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根本 知己 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (50291084)
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研究分担者 |
川上 良介 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (40508818)
日比 輝正 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (50554292)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イメージング / 2光子顕微鏡 / 脳神経系 / がん / 蛍光 / 超短光パルスレーザー |
研究実績の概要 |
本研究課題において新規導入した広帯域の近赤外フェムト秒パルスレーザー(SpectraPhysics社, Maitai Deepsee)を用い、光操作が同時に実行可能な新型in vivo2光子顕微鏡システムの高度化を推進した。光刺激を同時に行うためのレーザー光の導入光学系については、近赤外領域で720nmと800-1000nmの2本の波長を合成可能とするために、特殊なダイクロイックミラーを用いて構築した。また、レーザー波面の補正による高次収差の補正の効果を確認した。解析の結果、観察対象と界面との屈折率の不一致や界面形状が重要な要因であった。生きたマウス脳において脳表面から約1.3 mmという世界で最も深い深部到達性とサブマイクロメーターの分解能を実現し、世界で初めて大脳新皮質の全層と海馬CA1ニューロンのin vivoイメージングに成功した。さらに、他の臓器への応用も開始し、同様の観察に成功したという報告の少ない臓器や観察対象でもin vivo観察に成功した。一方、新規蛍光分子や、光活性化分子を用いて、この新型in vivo2光子顕微鏡と融合させ、多種類の分子や細胞の動態を、同時かつ高時空間分解能で、計測することが可能とし、真の生きた状態における分子細胞生物学を確立することも目標とした。神経・分泌を対象としたモデル系の確立としては、SNARE関連タンパク質に代表される膜融合関連分子の開口放出への関与を直接測定する実験系の構築を実施した。即ち、新規蛍光タンパク質シリウス (Nature Method, 2009)を用いたv-SNARE分子の蛍光タグ化に成功し、破骨細胞における酸性小胞の可視化に成功した。またグルコース輸送体の蛍光タグ化し、その可視化にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
局所的に光刺激や光活性化を行いつつ、非侵襲的なイメージングを同時実行することが、生体分子ネットワークや細胞相互作用のダイナミクスの解析を強力に推進する方法論であると考え、実験を遂行した。その結果、2光子顕微鏡の断層イメージングは、特に脳組織で高い深部到達性と解像能を示してきた。その一方で、他の生体組織の場合には、非侵襲的な細胞形態や分子局在の可視化には、同様の光学条件での2光子顕微鏡だけでは不十分であることが明らかになった。それは、その生体組織固有の光学的性質のばらつきや、空間的な不均質性に由来することが明らかになった。この問題を解消するには、対物レンズに導入する励起用レーザービームの光学的な特性をダイナミックに変化させることが必要であった。尚、光刺激用とイメージング用のレーザー光をそれぞれ独立に操作し、顕微鏡へ合成・導入するためのダイクロイックミラーについて、顕微鏡メーカーの特注を依頼したが、納期に若干の遅れが生じた。現在は全く問題は無く、解消されている。 特に、生きたマウス脳において脳表面から約1.3 mmという世界で最も深い深部到達性とサブマイクロメーターの分解能を実現し、世界で初めて大脳新皮質の全層と海馬CA1ニューロンのin vivoイメージングに成功した。これは当初の計画以上に進展した結果であり、その成果を原著論文として発表した。この発表は読売新聞、北海道新聞等のマスコミにも取り上げられると共にネイチャーアジアのホームページでは「注目の論文」として選定された。また、一方、SNARE関連タンパク質も関する研究においても、新規蛍光タンパク質を十全に利用することで、今までに観察が困難であっと細胞内小器官や生体分子のイメージングが可能となった。SNARE分子の小胞輸送における生理機能の解明へと繋がっている。
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今後の研究の推進方策 |
イメージングと光刺激が同時実行可能な新型“in vivo”2光子顕微鏡のパフォーマンスの向上を図る。がん組織、骨組織など多様な生組織の深部解像能を向上させ、可視化と光操作の同時実行による生体分子動態の高精度解析を可能とする。[平成25年度] ① “in vivo”2光子顕微鏡システムの深部化:光活性化反応が惹起される領域を最小化する条件と可視化の際の空間分解能の最適化条件は等価であるので、前年度の可視化の最適化する補正量に基づき、光学ファントムを用いて、in vivo光刺激法の最適化を行う。2光子光活性化の効率が低い場合には、波長やパルス幅の補正を行う。 ② がん、神経伝達に普遍的な分泌・開口放出の分子基盤の解明のための蛍光可視化系の確立:これまでの成果に基づき、生体脳中で、開口放出を引き起こす分子機械SNARE分子やその結合因子の動態、複合体形成などを同時可視化する。生理機能との対応を明確に取るため、電気生理学的計測により同時解析の系を確立する。 [平成26年度]③ “in vivo”2光子顕微鏡システムの深部化とその他の生組織への応用:他計画研究者の作成した組織標本や蛍光プローブについても試み、その光学的な特性や問題点を明確化する。2光子励起された蛍光の強度を指標として、波面補正の各次数の補正量とその深さ依存性を決定する。そのデータに基づき、画像改善を最適な高次項の再帰的計算により実施する高速アルゴリズムの構築から、観察する対象を選ばない「その場」画像改善を目指す。 ④ 新規蛍光タンパク質による光標識と可視化を駆使した開口放出分子機構のin vivo定量解析:さらに光標識を加え、内容物の放出に伴った分子動態を定量化する方法論を開発する。最終的にがん、骨等での比較検討から分子機能の一般原理を検討する。
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