研究領域 | 細胞機能と分子活性の多次元蛍光生体イメージング |
研究課題/領域番号 |
22113006
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡田 峰陽 独立行政法人理化学研究所, 免疫細胞動態研究ユニット, ユニットリーダー (50452272)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 免疫 / 癌 / 細胞障害性T細胞 / 樹状細胞 / イメージング |
研究実績の概要 |
平成24年度は、転写因子Bcl6やその他の転写因子のエフェクターCTLやメモリーCTLの分化における役割を、レポーターマウスや遺伝子欠損マウスを用いて解析した。予備的な結果ながら、これまで提唱されてきた事と異なり、メモリーCTLにおけるBcl6の発現や役割はあまり顕著ではないという結果が得られ、一方でこれまでCTLにおいて解析されていなかった他の転写因子(仮称Lztx)がメモリーCTLの形成に非常に重要な役割を果たしていることが示唆された。野生型マウスに養子移植したLztx欠損CTLの抗原特異的応答の解析おいては、メモリーCTLが減少しているのに対し、エフェクターCTLの数は野生型CTLの場合と比較してむしろ増加していると結果が得られた。このことはLztxの発現ダイナミクスがエフェクター対メモリーCTLのバランス形成に重要な役割を果たしている可能性を示唆している。またCTL形成にとって重要な樹状細胞サブセットを、さらにリンパ節常在型および移動型に細分化して可視化することのできる、新規蛍光レポーターマウスを用いたイメージング解析を行った。その結果、可溶性抗原による免疫応答において、CTL形成初期においてCD8陽性T細胞を活性化するために特に重要な樹状細胞は、移動型のCD103陽性樹状細胞であることを見出した。さらに腫瘍組織内における樹状細胞サブセットの役割を調べるために、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞とCD103陽性樹状細胞のライブイメージングを行った。この結果、腫瘍組織内でもCD8陽性T細胞がCD103陽性樹状細胞との相互作用を行う事が判明し、腫瘍組織内でCTLの増殖維持や分化制御にCD103陽性樹状細胞がなんらかの役割を担うことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CTLの細胞増殖のイメージングに関しては、分子プローブおよびT細胞受容体のダブルトランスジェニックマウスの作成、および二光子励起波長の最適化により、リンパ節および腫瘍においてライブイメージングにより解析出来るようになった。しかしながら細胞死のFRETプローブについては、二光子励起法を用いたFRETシグナルのイメージングが、特に腫瘍組織内においてまだ十分に達成されていない。領域代表の松田教授のグループを中心とした、二光子顕微鏡によるin vivo FRETイメージング技術に長じた領域内研究者に、今後助言や技術指導を頂きながら技術向上をしていく必要があると考えている。 エフェクターCTLやメモリーCTLの特異的な可視化のためのレポーターマウス開発については、申請当初から計画していたKlrg1遺伝子ノックインマウスが、以前として作成途上の段階である。しかしながらその理由の一つは研究過程において、メモリーCTLの形成に重要な転写因子(仮称Lztx)が見出されたことにより、大きなエフォートを迅速にそちらに割く必要に迫られているためである。Lztx欠損マウスやLztxの蛍光レポーターマウスの解析からもたらされた発見により、本研究は大きく進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究で、CTLの分化バランス、特にメモリーCTL形成に重要であると強く示唆された転写因子Lztx(仮称)の欠損マウスを、細胞周期プローブ遺伝子とT細胞受容体遺伝子のトランスジェニックマウスを交配する。このマウスを用いたイメージング解析により、腫瘍細胞や樹状細胞との相互作用とCTL細胞周期との関係が、Lztx遺伝子欠損よってどのような影響を受けているかについて調べる。細胞死プローブ発現CTLのイメージングにおいては、二光子励起FRET解析技術の向上を領域代表のグループに指導を頂きながら向上させ、その後これをLztx遺伝子欠損CTLの腫瘍内およびリンパ節内イメージングに導入した実験を行う。また、メモリーCTL分化の可視化のためのLtzx蛍光レポーターマウスや、エフェクターCTL分化の可視化のためのKlrg1遺伝子もしはBlimp1遺伝子の蛍光レポーターマウスを樹立または入手し、これらをLztx遺伝子欠損CTLの腫瘍内およびリンパ節内イメージングに導入した実験を行う。これらの実験から得られたCTL分化バランス調節メカニズムに関する示唆について、論文発表や学会における発表を行っていくとともに、成果を社会に発信するために、サイエンスカフェなどのイベントを通して一般市民との対話を積極的に行っていく。
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