計画研究
本研究代表者は深部組織の観察に適した多光子励起顕微鏡を駆使して,動物を生かしたままの状態で組織・臓器を観察する研究を行ってきた。本研究ではこの方法をさらに改変・発展させ,慢性骨髄性白血病や多発性骨髄腫などの血液系悪性腫瘍の骨髄腔内での動態や,それらに対する細胞性免疫応答の可視化に取り組んでいる.平成24年度には,蛍光標識したbcr-abl発症白血病細胞を骨髄腔に定着させることに成功し,抗がん剤耐性がん幹細胞の動態やそのニッチ環境の可視化にむけて研究を進めた.さらにはbcr-abl発症白血病細胞にOVAペプチドを過剰発現させるがん細胞を作成しており,これとOT-I CD8+ T細胞を利用することで,白血病細胞のニッチ環境とその場での免疫応答(免疫除外)の解析系の確立にむけ進めた.さらに本研究では免疫不全マウスへのがん細胞移植(ゼノグラフト)系を用いて,蛍光標識したヒトがん細胞の動態(特に増殖と浸潤の時空間的解析)を行った.特に研究領域内の共同研究により,細胞周期・分裂を可視化する蛍光タンパク質Fucciを活用して、ヒト高浸潤性大腸がん細胞株HCT116の浸潤・転移の生体多光子励起イメージング解析を進めた.この方法論により、浸潤する細胞の微小な動態を1細胞レベルの高解像度で観察し、細胞周期と細胞浸潤能の関連性について詳細な解析を行い,分裂期にある細胞の方が高浸潤性であることが分かり,これを利用して浸潤性の高い細胞のみを色分けして分取することに成功した.さらにmicroarrayを用いて浸潤性のがん細胞に高く発現する分子を同定し,これが細胞周期依存性に細胞の動態・浸潤を制御していることを発見した.
2: おおむね順調に進展している
骨髄内でのがん細胞イメージング系の確立,およびそれを活用したがん細胞ニッチ環境の可視化に成功しており,当初計画の通り順調に経過している.さらにはゼノグラフトを用いたがん細胞の浸潤・転移の可視化解析についても当初の計画を上回る形で進行しており,全体としては計画研究は順調に進行していると自己評価できる.
骨髄内での造血系腫瘍のイメージング系,およびヒトがん細胞のゼノグラフト系における実験データはそれぞれに得られるデータの性格が異なる.平成25年度以降においては,これらの異なる実験系における解析結果を統合して検討する計画とし,がん細胞の動態やその微小環境による制御機構に関する,より普遍的な概念の創出を目指す.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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