研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114002
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畠山 昌則 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (40189551)
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研究分担者 |
紙谷 尚子 東京大学, 大学院・医学系研究科, 助教 (40279352)
堤 良平 東京大学, 大学院・医学系研究科, 助教 (50435872)
武藤 弘行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (50322392)
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キーワード | 癌 / 感染症 / 細菌 / シグナル伝達 |
研究概要 |
ヒト全がんの90%以上は、上皮に由来するがん(上皮がん=carcinoma)である。上皮がんに普遍的に認められる頂端側-基底側極性の喪失は細胞がん化に深く関与することが推察されているが、その病態生理学的意義は未だに不明である。感染・炎症がんの代表である胃がんはピロリ菌の慢性感染を基盤に発症する。胃がん発症には、ピロリ菌が産生するがんタンパク質CagAが重要な役割を担う。CagAはピロリ菌の注射針様装置(IV型分泌装置)を介して細胞内に注入された後、がんタンパク質SHP2を脱制御するとともに極性制御キナーゼPAR1を不活化する。よって、CagAによる発がん機構の解明は、上皮極性破壊と発がんとの関連を明らかにする格好の系となる。そこで、非極性化上皮細胞にCagAを異所性発現させたところ、SHP2により脱制御されたERK MAPキナーゼが発がんストレスとなり、p21 CDKインヒビターの蓄積とそれに続く早期細胞老化が誘導された。これに対し、極性化上皮細胞にCagAを発現すると、細胞は細胞間接着能ならびに極性を失うとともに極性化細胞層から離脱した。離脱したCagA発現細胞では脱制御されたERKシグナル依存的に細胞の異常増殖が始まる。極性化上皮細胞に侵入したCagAは、極性破壊の過程で、タイトジャンクションに存在するGEF-H1-cingulin複合体を破壊する結果、GEF-H1依存的なRhoAの活性化が惹起される。活性化RhoAはROCK-c-Myc経路を活性化し、c-Myc依存的なmicroRNA (miR17, mir20a)が転写誘導される。これらのmicroRNAはp21 mRNAを標的とするため、極性化上皮細胞に発現したCagAはp21の蓄積を阻止することができる。本研究から、炎症による上皮極性の破壊は、正常細胞が発がんシグナルに対抗するために保有するがん抑制機構(=早期細胞老化)を阻止することにより、発がんシグナル依存的な異常細胞増殖を可能にすることが明らかにされた。
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