研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畠山 昌則 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40189551)
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研究分担者 |
紙谷 尚子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40279352)
武藤 弘行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (50322392)
堤 良平 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50435872)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 感染症 / 細菌 / 炎症 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
CagA-Tgマウスならびに正常マウスにdextran sulfate (DSS)を慢性投与して、消化管粘膜に誘導される粘膜炎症の程度ならびに消化管腫瘍の発症頻度を比較検討した。その結果、CagA-TgマウスではDSS誘発性消化管粘膜炎症が著しく増強されることが明らかになった。また、正常マウスにおいてもDSSの持続単独投与により低頻度ながら消化管腫瘍が発症するが、この腫瘍発症頻度もCagA-Tgマウスにおいて強く増大していた。ピロリ菌CagA自身には炎症を惹起する活性(起炎症活性)は存在しない(あるいはきわめて弱い)と考えられることから、CagAは他の起炎分子により誘発された炎症を増強するというユニークな病原生物活性を有していることが明らかになった。さらに、CagA Tg マウスの消化管粘膜では、正常マウスに比べて炎症反応のマスター分子であるNF-kB転写因子の活性化閾値が有意に低下していることが明らかとなり、CagAによる炎症増強作用の背景に細胞内IkBプールの減少が存在する可能性が示唆された。 個体レベルで認められたピロリ菌CagAの炎症増強機構を細胞レベルで解明するため、CagA誘導発現胃上皮細胞株を用い、CagAの誘導にともなう自然免疫応答関連分子群、なかでもインフラマゾーム関連分子群の発現ならびにその活性変動を網羅的に解析した。結果、CagA発現は遅発性のインフラマソーム活性化を誘導することが判明した。このインフラマソーム活性化に先立ち、IL-6やTNF-βといった炎症性サイトカインの誘導が惹起されることから、ここにもCagA存在下でのNF-kBシグナルの活性化閾値低下が関与していることが推察された。 秋吉らの研究グループとの共同研究でピロリ菌に対する有効な粘膜免疫樹立を目指すべく、高濃度の組換え型CagAをナノゲル内に封入する手法を確立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピロリ菌がんタンパク質が炎症のエンハンサーとして機能するという新たな発見は、感染がんの発症機構を考える際に、発がんシグナルと炎症シグナルがお互いに増幅しあうシステムの存在を世界に先明けて明らかにしたものとして高く評価したい。また、有効なピロリ菌免疫を誘導するための、CagA含有ナノゲルの作製成功は治療実験に大きく弾みをつけるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
CagAによる炎症と発がんの正のシグナル制御機構の本態を明らかにする。とりわけ、NF-kBの制御とインフラマソームの活性の連関に焦点を絞り研究を進めていく。また、砂ネズミを用いたピロリ菌感染実験におけるCagAナノゲルのワクチン予防効果を検討する。
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