研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畠山 昌則 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40189551)
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研究分担者 |
紙谷 尚子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40279352)
齊藤 康弘 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30613004)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 感染症 / 細菌 / 炎症 / シグナル伝達 |
研究概要 |
昨年度までの研究で、ピロリ菌CagAを構成的に発現するトランスジェニックマウス(CagA Tgマウス)ではデキストラン硫酸塩(DSS)誘発大腸炎が著しく増悪するとともに大腸がん前がん病変であるdysplasia発症頻度が大幅に増大することを見いだした。そこで本年度はCagAによる炎症ならびに発癌の増強機構解明を進めた。CagA Tgマウスでは大腸粘膜におけるIkBの細胞内プールが有意に低下していた。IkBレベルの低下は胃粘膜においても観察された。このIkBプール減少はIkBの分解促進に起因し、CagAによるPAR1のキナーゼ活性抑制が関与していた。PAR1は微小管の安定性を制御することが知られており、また微小管はIkB分解に関与することが示されている。従って、CagA依存的なIkBプールの低下はPAR1不活化を介した微小管細胞骨格系の機能異常により引き起こされると考えられた。CagA存在下で増悪したDSS誘発大腸粘膜炎症部位には、多数のポリープ型ならびにフラット型dysplasia(一部は上皮内がん)が認められた。DSS投与した野生型マウスに少数ながら認められるdysplasiaの多くはポリープ型であり、フラット型dysplasia の誘導はCagA特異的な現象と考えられた。CagAにより誘導されたdysplasiaは全例においてβカテニンの著しい核内蓄積が認められ、また約半数例で強いp53の核内染色が認められた。CagAは Wnt-βカテニンシグナルを脱制御するとともにp53の分解促進や変異誘導を引き起こすことが知られている。CagAにより増悪された炎症がCagAの多彩な発がん活性を増強する結果、細胞のがん化を促す負のスパイラル応答(発がんスパイラル)が個体内で形成されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究を通して、ピロリ菌がんタンパク質CagAと炎症が呼応しあってがんの発症を促す「発がんスパイラル」の存在が個体レベルで明らかにされたと考えられる。また、この負のスパイラル形成の背景にある炎症ならびに発がんの細胞内シグナル経路が分子レベルで解明された点は本研究におけるきわめて重要な成果と考える。
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今後の研究の推進方策 |
ピロリ菌CagAを条件依存的に発現するトランスジェニックマウスの樹立と長期観察を通して、胃がんの最初期変化と考えられる胃粘膜病変を安定的に再現することに成功した。そこで、この微小胃粘膜病変解析を通して、CagAが誘導する胃発多段階発がんの宿主細胞側ドライバー変異となるゲノムあるいはエピゲノム変異を明らかにする。
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