研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)感染による肝疾患、肝がんの発症には細胞の脂肪代謝変化が重要な働きをしていると考えられる。HCV感染細胞で脂肪代謝変化が生じる理由について解析をすすめ、(1)HCVのコア蛋白質依存的に脂肪滴の増加が観察される事、(2)細胞外へのHCV粒子放出の際に、リポ蛋白質構成成分と会合することなどから、肝細胞のリポ蛋白質の分泌系を利用することなどが明らかになった。感染細胞内での脂肪滴の機能やウイルス粒子とリポ蛋白質との会合は、ウイルス増殖にとって必須の事象である。つまり脂肪代謝変化は、感染してウイルスが増殖するために必要な環境を細胞内に構築するための手段であると考えられた。 脂肪代謝系の変化とHCV増殖との関連性をさらに深めるために、リポ蛋白質の構成成分のひとつであるApolipoprotein E (ApoE)がウイルス複製に果たす役割を調べた。ApoE遺伝子には3種類のアイソフォーム(ApoE2, E3, E4,これらの中でApoE3が人口の80%を占め、ApoE2,E4はそれぞれ5%をしめる)が知られている。ApoEノックダウン細胞からは感染性粒子の産生は著しく抑制された。この細胞に外来的にApoE3あるいはApoE4を導入すると感染性粒子産生は回復した。一方、ApoE2を導入した細胞からのHCV産生は著しく阻害された。この事から、HCVの生活環にApoEが重要な働きを持つ事が明らかになった。ApoE2はlow density lipoprotein receptor (LDLR)との親和性が低いので、HCVの感染にはLDLRを介した細胞への吸着反応が重要である可能性が示唆された。ApoEはVLDL,HDLなどの構成成分のひとつであり、脂肪輸送に重要な働きをする。一方、HCVがApoEと会合する事により感染性を獲得している事を考えると、細胞外の放出されたウイルスはリポ蛋白質と一部類似の挙動を取りうるとも考えられ、この事が脂肪代謝変化をもたらす原因のひとつになりうる。
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