研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114004
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
下遠野 邦忠 千葉工業大学, 附属総合研究所, 教授 (10000259)
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キーワード | C型肝炎ウイルス / 炎症 / 脂肪代謝 / アポリポ蛋白質 / HCV / APOBEC1 / 感染 |
研究概要 |
HCV感染は細胞内の脂肪代謝を変化させる事を、ウイルス蛋白質による脂肪代謝の活性化と細胞から放出される脂肪輸送系の変化との関連で解析した。これらの変化が感染細胞の脂肪代謝を変化させ、脂肪肝の様な肝発がんの危険要因になる疾患の発症と関連すると考えられる。これらの脂肪代謝変化は、ウイルスの増殖に重要である。細胞内に蓄積した脂肪滴周辺でウイルス粒子の集合がおこり、それが小胞体、ゴルジを経由して細胞外に放出される。さらに粒子が放出されるときに、細胞の脂肪輸送経路が必要であり、放出された粒子はリポ蛋白質と複合体を形成している。ウイルス粒子と複合体を形成するリポ蛋白質の成分のアポリポ蛋白質E(ApoE)はウイルスが感染する際の細胞表面に存在する受容体への吸着に必要であり、ApoEが存在しないと感染は成立しない。HCVが細胞に吸着する際に、リポ蛋白質受容体(LDLR,SR-BP1等)がウイルスの受容体として働くが、効率よい吸着には両者が存在する事が必要である事を示唆する結果を得た。 HCV感染や細胞へのストレス等の負荷により産生される遺伝子編集酵素の中で、APOBEC1が増えることを見いだした。他の研究者が、ApoB48がHCVと会合するという報告を出している等から、HCV感染細胞におけるAPOBEC1の意義を調べたが、HCV自身はAPOBEC1の遺伝子発現を活性化しない。しかし、HCV感染細胞ではAPOBEC1 mRNAの減衰が抑制されていることを見いだした。これらの事から、HCV感染によるAPOBEC1の細胞内の量的変化が推測されたが、発現が低いために蛋白質量を測定するには至っていない。APOBEC1は生理的には小腸で産生され、ApoB100からApoB48への変換を行う事が知られている。また、動物実験から、APOBEC1の異所性発現はがん化を促進する事が知られている。その機構は不明であるが、APOBEC1の生理的な働きを明らかにする事は、HCV感染による肝発がんの解明に寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HCV感染が細胞の脂肪代謝を変えて自身の増殖に有利な環境を作る事を明らかにした。細胞側にとっては、脂肪代謝の変化が、細胞内の脂肪を増やす結果、脂肪肝を発症する要因になり肝疾患の増悪に関連すると考える方向性を示した。一方、HCV感染細胞による遺伝子編集酵素、APOBEC1の増加の意義を解析し、これがHCV複製の促進に寄与するという結果は得られなかった。むしろ細胞の感染防御的な意味があるかもしれない。また、動物実験から、APOBEC1の異所性発現はがん化を促進する事が知られている。HCV感染により増えるAPOBEC1の生理的な働きを明らかにする事は、HCV感染による肝発がんの解明に寄与すると考えられる成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
APOBEC1がHCV感染細胞で亢進している事の意義を追求する。特に、APOBEC1レベルを変化させたときの細胞側の質的な変化を解析するとともに、マウスモデルを用いたAPOBEC1の炎症やがん化との関連性を調べる。
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