研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114004
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研究機関 | (独)国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
下遠野 邦忠 (独)国立国際医療研究センター, 肝炎免疫研究センター, 特任部長 (10000259)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | C型肝炎ウイルス / 炎症 / 脂肪代謝 / 星細胞 / MIP1beta / IL-lalpha / cytokine / chemokine |
研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は慢性肝炎を引き起こし、それが肝がん発症の危険要因になっている。その過程で、肝傷害の程度が高いほど発がん率も高くなる。肝傷害が炎症により引き起こされるので、感染による持続的な炎症の継続ががん化への負のスパイラルを形成する。これまでに、HCV感染が炎症性サイトカインを誘導することが報告されているが、それは主として感染細胞におけるウイルスタンパク質の働きによる場合が多い,一方肝臓は肝実質細胞のほかに肝組織を維持する他の細胞も含む集団で構成されている。慢性肝炎が持続すると肝の線維化が生じて次第に悪性化する。これには肝星細胞が関与するので、感染による実質細胞の変化を星細胞が感知する微小環境が存在すると考えられる。事実肝実質細胞と星細胞はお互いに細胞の一部分を通して接触して存在する。そこで、感染細胞と星細胞の間にどのような細胞間コミュニケーションが存在するかを、培養細胞を用いて解析した。HCVに感染したヒト肝細胞と不死化したヒト星細胞を混合培養すると、炎症性サイトカインの一つであるMIP1betaなどの産生が増加した。非感染細胞と混合培養しても本サイトカインの発現誘導は見られない。この現象を詳細に解析した結果、星細胞から放出されるIL-lalphaにより肝細胞内でのMIP1betaなどの炎症性サイトカイン産生が誘導されることが分かった。それが感染細胞ではC/EBP1の発現が亢進する結果であることも明らかになった。これらのことから、生体内でHCV感染により炎症が惹起されるには、隣接して存在する星細胞も重要な働きをしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HCV感染による肝がん発症には炎症の継続が必要であると考えられる。ウイルス抗原を認識して浸潤するリンパ球や好中球による感染細胞の傷害とそれにより惹起される炎症反応にはサイトカインやケモカインによるこれら細胞の標的への遊引が必要である。星細胞と感染肝細胞のクロストークは好中球の遊走に必要なサイトカイン産生を促していると考えられる。このような微小環境における長期的な炎症の継続は発がん過程の重要な要因になりうると考えられ、発がんに向けた持続的な炎症反応機構のひとつと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に見いだした現象が生体内でも生じているかを検証し、発がん過程における炎症反応の持続性を維持する機構を明らかにする。また、肝炎ウイルスが炎症を惹起するその他の要因についても明らかにする。
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