研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は慢性肝炎を効率に誘導し、それを背景にして肝がん発症率が高くなる。炎症の過程で傷害の度合いが高いほど発がん率も高くなるといわれている。感染による持続的な炎症の継続ががん化への負のスパイラルを形成する。HCV感染による炎症性サイトカインは、種々の方法で誘導される事が明らかになりつつある。これまでにHCV感染肝細胞と星細胞とのクロストークにより感染肝細胞からMIP1betaが誘導される事を明らかにした。さらに詳細に解析を進め、MIP1beta以外にIL-6, IL-8, CXCL2, CXCL1, MIP1alpha等も誘導される事が分かり、クロストークによる各種サイトカイン、ケモカインの誘導産生が生理的に重要な働きをしている可能性が考えられた。また、ある種のがん組織や慢性炎症組織においては本来分化した小腸においてのみ発現が見られるApobec1(Apo1)が異所性に産生する。この異所性に発現するApo1の意義を解析している過程で、Apo1が種々のサイトカインやケモカインmRNAと会合する事を見いだした。特にある種の肝細胞ではIL-8 mRNAとの会合が高く、IL8産生向上に関与していた。Apo1とIL-8 mRNAとの会合は細胞特異的であり、それにはApo1と会合する別の蛋白性因子の存在が必要である結果を得た。このようにHCV感染による炎症を誘導し、維持させるのに必要なサイトカイン類の産生誘導は肝組織内の免疫関連細胞によるものの他に、多彩な機構が存在する事が明らかになり、それが発がんスパイラルを亢進する可能性が考えられる。
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