消化管腫瘍の発生には、遺伝子変異による「上皮細胞の腫瘍化」と炎症性生体反応による「微小環境形成」の双方が必要と考えられる。とくに胃がんの微小環境では、ピロリ菌などの細菌感染刺激で惹起される炎症反応が発がん促進の場となり、それによりがん細胞の増殖亢進や未分化性の維持が誘導されていると考えられる。本研究では、ヒト胃がんを発生の分子機序から再現した、炎症をともなう胃がんを自然発生するGanマウスモデルを用いて、がん微小環境の重要な構成成分と考えられるマクロファージに着目した研究を遂行している。今年度は、無菌化Ganマウスの作製と薬剤投与実験を中心に以下の実験を遂行し成果を得た。 Ganマウスを完全無菌化し、無菌環境で飼育すると胃の炎症反応および胃がん発生が顕著に抑制された。また無菌化Ganマウスの胃粘膜に常在菌またはヘリコバクターを再感染させると炎症をともなう胃がん発生が誘導された。一方、常在菌存在下でのGanマウス胃がん組織では炎症性プロスタグランジンであるPGE_2産生が誘導されているが、PGE_2受容体EP4の阻害薬投与により胃炎、胃がんともに発生が顕著に抑制された。培養細胞を用いた実験では、細菌由来LPSとEP4受容体刺激の相互作用が間質におけるケモカインCCL2の発現を誘導することが明らかとなり、実際にGanマウスにCCL2中和抗体を投与するとマクロファージ遊走が抑制され、腫瘍間質での細胞死が認められた。以上の結果から、細菌感染刺激とEP4を介したPGE_2経路の双方がマクロファージ遊走ケモカインCCL2の発現を介して炎症性微小環境形成に寄与することで、腫瘍形成が促進される可能性が考えられた。以上の成果はGastroenterology誌に論文発表した。
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