研究概要 |
本研究では、ヘリコバクターピロリ菌感染による胃発がんとヘリコバクターハイルマニ感染による胃MALTリンパ腫の発症メカニズムを、感染-炎症-発がんスパイラルの点から検討した。ピロリ菌感染のマウスモデルと培養細胞によるin vitro感染実験において、感染粘膜及び細胞で、activation induced cytidine deaminase (AID)の発現亢進を認めた。また、AIDの発現亢進により、感染宿主ゲノムのCDKN2b~CDKN2a領域で遺伝子変異が蓄積することを認めた。CDKN2b~CDKN2a領域はがん抑制遺伝子であるp14,p15,p16が位置しており、この領域での遺伝子変異の蓄積が、発がんに関与することが考えられた。一方、ピロリ菌側の因子を解析するために、臨床分離株、F32,F57(胃がん)、F16(胃炎)、F30(十二指腸潰瘍)の全ゲノム解析を行った。系統樹解析では、いずれの日本株も欧米株と異なるbranchに位置することが明らかになった。発がん因子と考えられているcegA遺伝子を解析すると、胃がん死亡率が高い東アジアでは東アジアに特異的な遺伝子型示す。しかし、アジアでも胃がん死亡率が低いフィリピンでは、欧米型の遺伝子型を示す菌株が約70%と高いことが認められた。 一方、ハイルマニ感染の病態を検討したところ、ハイルマニ感染マウスでは3カ月後にほぼ100%リンパ濾胞が形成される。ハイルマニ感染における宿主の免疫応答はパイエル板無形成マウスでも生じることより、パイエル板を介さない経路であることが示された。これは、ピロリ菌における胃粘膜の炎症がパイエル板を介するものであるのと大きく異なっていた。
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