研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114008
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
瀬谷 司 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10301805)
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研究分担者 |
櫨木 薫 広島大学, 医歯学総合研究科, 准教授 (50146007)
PENMETCHA Kumar 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (80357938)
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キーワード | Toll-like receptor / パターン認識 / 抗がん免疫 / マクロファージ / 樹状細胞 |
研究概要 |
炎症の自然免疫応答は微小環境の構築・抗がん免疫の起動に関与する。特に慢性炎症は発がんのプロモーターとしてがん細胞の増殖・浸潤・転移を促進し、がん化を助長すると云う証拠が提出されている。一方、抗がん免疫応答は樹状細胞が免疫エフェクター細胞を活性化する所に起点があり、これを促進するのも炎症である。本研究ではマウス系でウイルスRNAが誘起する自然免疫シグナルと発がん・抗がん環境を分子レベルで明らかにし、発がんスパイラルの制御へ資することを目的とする。本年度は以下の成果を得た。1. ウイルスRNAが誘起するTLR3経路は樹状細胞(CD8+ DC)、TAM (腫瘍浸潤マクロファージ)において抗がん免疫応答を惹起する。エフェクターはCTL, TNF-α とそれぞれ異なる(Shime, Seya et al., PNAS 2012)。2. HCV感染のマウス細胞培養モデルを作成し、MAVS-/-肝細胞がHCV感染を許容することを証明した(Aly, Seya et al., PLoS ONE 2011)。発がんを起動するin vivo持続感染モデルは難しいのでhydrodynamics などを検討中である。3. ウイルスRNAはTLR3やRIG-I/MDA5のリガンドとなり、免疫関連遺伝子を発現上昇させてインターフェロン(IFN)以外に種々の免疫変調作用を発揮しうる(Seya. EOTT 2013)。4. PolyI:C刺激でCD8+ DCに発現上昇する遺伝子群を網羅的に抽出し、それらの炎症がんとの関連を調べ、機能同定を遂行する。項目2~4 がマウス解析系の確立の遅れのために繰越となり、H24年9月に成果を取りまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半年間の遅れが生じた間のデータを主に解説し、その間の達成度を記載する。 炎症解析マウスモデルはC型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、ポリオウイルス (PV), 麻疹ウイルス(MV),を揃えてそれぞれの解析を行い、樹状細胞TICAM-1 下流の発現分子の相違を検討している。モデル系としてpolyI:CをDC刺激に用い、CTL誘導に関与する分子群をレンチウイルスによるsiRNA, overexpression によって査定した。現在2つのcross-priming の候補遺伝子が得られている。CTL誘導はCD8+ DCのcross-priming に起拠し、dsRNAがCD8+ DCを刺激すればDC内でこれらの遺伝子は発現上昇する。これらCTL誘導性のTICAM-1下流分子の機能を解析している。(概ね順調) 至適な免疫アジュバントの開発をin vitro transcribed RNAを用いて進めた。エンドソーム標的にGpC DNAを用い、50種類のDNA/stem RNAキメラ分子を作成した。これらのスクリーニングを行なっている。GMP用に化学合成を進めている。(やや遅れ) 自然免疫の炎症応答と発がん解析のin vivoモデル系がまだできていない事が最大の問題である。in vivoはhydrodynamics のHCV導入系とHCV cDNA発現系、in vitroはKOマウスの肝細胞を不死化した各IFN誘導系の欠損肝細胞株を用いた培養系とした。(変更点の1つとして中間報告に盛り込んだ)
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今後の研究の推進方策 |
以下の各課題を自然免疫のdsRNA応答として解析する。 1. 腫瘍浸潤マクロファージとしてTAMの他にGr-1陽性のMDSCがあり、がんのpromotionに寄与している。MDSCのpolyI:C刺激によるMAVS, TICAM-1依存性経路と炎症応答の関連を明らかにする。2. 肝実質細胞におけるHCVの複製とtype I とtype III IFN 誘導経路の関係をMAVS, TICAM-1欠損肝細胞を使って解析する。3. TICAM-1依存性cross-priming誘導因子の機能解析(上記)と免疫変調の原因因子を解析する。MAVS経路がtype I IFN誘導に重要であるが、慢性肝炎やヘパトーマ細胞ではTLR3が陽転してTICAM-1経路も関与しうる。自然免疫活性化の状況でアポトーシスやネクロプトーシスが進行する可能性がある。4. ウイルス感染細胞の細胞死(特にネクロプトーシス)は破砕細胞からDAMPとともにウイルスdsRNAも遊離する。これは火傷、放射線障害、抗がん剤などによる通常の自己細胞傷害と根本的に異なる点である。両者の織りなす複合炎症のがん進展に於ける意義を探究する。5. 肝細胞が破壊するとDAMPと呼ばれる自然免疫活性化因子が放出される。その際の炎症修飾とがん進展の可能性を検討する。TLRなどによるパターン認識が単なる微生物成分(PAMP)やDAMP認識に留まらず、広く生体の恒常性を点検する仕組みであることをがん免疫を通じて例証したい。 化学合成DNA/stem RNAが完成すればその活性が免疫細胞の活性化とがん細胞・線維芽細胞などへいかなる影響をあたえるかを解析し、発がんスパイラルの抑制と抗がん環境の誘導に効果的であることを証明していく。
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