研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
22114009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
秋吉 一成 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90201285)
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研究分担者 |
新屋 政春 京都府立医科大学, 医学部, 研究員 (10405277)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / ナノゲル / ワクチン / siRNA |
研究概要 |
感染がんの発症メカニズムを理解しそれらを制御するには、その発がんスパイラル場(がん微小環境)を自在に操作する技術が必要である。そのためには、種々のサイトカインsiRNA、miRNAなどの生理活性物質を、目的の部位、かつ必要な時間に、送達、発現、あるいは徐放させることのできるドラッグデリバリーシステム(DDS)の進展が望まれる。本研究では、申請者が独自に展開しているナノゲル工学やシャペロン機能工学を駆使することにより種々のDDSを構築し、領域内での有機的な連携により、新規ワクチンの開発とサイトカイン等の徐放制御を行い、がん微小環境の機能解明と発がんスパイラルの制御法を開発する。 1)従来のサイクロクロアミロースを基盤としたカチオン性ナノゲルキャリア系の他に、あらたにクリック反応を利用したコレステロール置換プルランを基盤としてカチオン性ナノゲルがプラスミドやsiRNAのデリバリーに有効であることを明らかにした。このシステムの有用性を、核酸アジュバントのデリバリーと機能発現により検討する。 2)昨年までにナノゲル/siVEGF(siRNA)複合体の腫瘍内投与が強力な腫瘍増殖抑制を誘導することを報告した。その腫瘍抑制作用機序を解析し、VEGFノックダウンによる腫瘍増殖抑制は、血管新生の抑制のみならず、骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid─derived suppressor cells: MDSC)や制御性T細胞 (Treg)の出現を抑制し、炎症性サイトカインであるIL-17Aの産生抑制を誘起していることが明らかになった。この詳細な機構を明らかにし、その有用性を実証する。 3)感染がんに関するワクチン療法に関して、ピロリ菌タンパク質CagAのリコンビナントタンパク質とナノゲルの複合化の条件を確立した。また、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の抗原タンパク質を調製し、ナノゲルとの複合化条件も確立し、動物を用いたワクチン実験を開始し、その機能を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノゲルシステムを用いたsiRNAの局所投与によるVEGFノックダウンにより、がん微小環境の免疫応答を改変することが可能であることを明らかにした。この手法は、他のsiRNAを用いたシステムへと適用可能である。 感染がんの治療に向けたナノゲルワクチンの製法を確立し、動物実験を開始して予備実験により、その有効性が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
1)多糖ナノゲルによる感染がんタンパク質免疫療法 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)では、HBZ遺伝子が全てのATL症例で発現し、ATL細胞の増殖に関与している。HBZおよびTaxウイルスタンパク質を多糖ナノゲルに封入したナノゲルワクチンを用いて動物実験を行い、キラーT細胞の誘導などの免疫活性を調べ、炎症・発がんを遮断する新規治療法の開発を目指す(京大松岡)、また、胃がん発症の鍵を握るピロリ菌病原因子であるCagAタンパク質を含有するナノゲルワクチンを調製し、動物実験を行いその免疫誘導を調べ、胃がん予防治療への応用を図る(東大畠山)。 2)機能性アジュバントのデリバリーシステムの開発と癌治療応用 瀬谷ら(北大)により開発された新規二本鎖RNAを複合化したナノゲルデリバリーシステムによる、in vivoでの免疫活性化能の解析とがん治療実験を行う。 3)核酸デリバリーシステムによるがん微小環境の制御 これまでに開発したsiRNAデリバリーナノゲルシステムを用いて、VEGF-A特異的なsiRNAによるがん治療の作用機構の解明と応用を行う。また、がん微小環境中の細胞質内核酸センサー分子の発現を制御して、細胞質内核酸センサーのがん微小環境での役割、および細胞質内核酸センサーの発現制御と発がん抑制との関係について検討する。慢性炎症を惹起する要因の1つとして、細胞質内に存在する核酸センサー分子の存在が指摘されているが、慢性炎症からがん化における細胞質内核酸センサーの役割については十分に理解されていない。そこで、細胞質内核酸センサーの発現制御が炎症と発がんの両方の抑制に繋がるか否かについて検討する。予備的な実験から、RNAヘリカーゼ特異的なsiRNAにより、RNAヘリカーゼの発現制御を行うことで炎症や腫瘍増殖が影響されることが明らかになった。RNAヘリカーゼの発現制御による、in vivoにおける炎症や腫瘍増殖への影響について検討する。
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