個々の神経細胞は、全長で数ミリメートルにも及ぶ複雑な樹状突起構造を持つが、その複雑性の機能的意義は未解明である。その中でも、大脳皮質第5層錐体細胞が脳表近く第1層まで伸ばす樹状突起部位は、高次領野および視床からの入力を受けること、運動学習によって運動野第1層でのシナプス生成・消失が起こること、から、この部位でのシナプス情報統合の重要性が想定されている。しかし、その実体、機能、意義については不明である。そこで、本研究では、大脳皮質運動野第1層樹状突起・シナプスを、異なったメゾ回路からの情報が統合される基盤構造と位置づけ、この実体と演算機能、運動野メゾ回路最終出力としての個体運動に対する寄与を、主に光生理学的手法を用いて解明する。最終年度は、昨年度に引き続き、マウスの頭部固定でのレバー前肢運動課題遂行中での他領野からの大脳運動野第1層に入力する軸索、特に視床から入力する軸索の活動を2光子カルシウムイメージングによって計測した。画像の体動揺れを補正するために高速3次元イメージングから計測画面の補正を行うアルゴリズムの開発を行った。その結果、体動揺れが殆どない画像に補正でき、多数の軸索終末部の時系列蛍光変化データを得て解析を行った。その結果、レバー引きの開始やレバー引き中、終了時に強く活動する軸索を多く検出した。これらの軸索にチャネルロドプシン2を発現させ、これを光刺激することで前肢運動を誘発できること、前肢運度課題中に弱い光刺激を行うとレバー引き運動が増加することを見出した。またレバー前肢運動課題中での運動野錐体細胞の第1層樹状突起活動を計測可能とし、レバー前肢運動に関連する活動を検出することに成功した。これらの結果から、他領野から入力する軸索には運動関連活動をもつものがあり、この活動は、運動野錐体細胞の樹状突起活動に変換され、運動誘発に直接的に関与している可能性を示唆された。
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