ショウジョウバエ幼虫の体表感覚細胞dendritic arborization(da)neuronは、ぜん動運動時の体壁の伸展に伴う張力を機械刺激として感受したり、あるいは高温や強度の圧力を侵害刺激として受容するなど多様な入力刺激に対応している。個々のda neuronは、固有の幾何学的形態(ジオメトリー)をもつ樹状突起を発達させており、刺激の物理的な多様性(有効面積、強度、時間変化率など)に最適化したジオメトリーを進化の結果獲得していると想像される。我々は、樹状突起ジオメトリーを調節する遺伝子プログラムを書き換えて、樹状突起長や分岐点の空間分布などの形態パラメータに摂動を加えることを可能にしてきた。da neuronは突起ジオメトリーから4つのクラスに分類されている。その中で侵害受容に与るclass IV da neuronをモデルとしてメゾ回路を同定し、その機能を解剖するとともに、感覚刺激応答や運動パターン出力など外部との入出力関係との定量的相関を解析することを目指す。そして、樹状突起のジオメトリーがどのように刺激入力を統合する演算基盤となるかを明らかにすることを試みる。 我々は、ホールマウント個体中のclass IV da neuronを赤外線レーザー照射により局所的に刺激し、その応答を記録する光学システムの構築を目指しており、細胞内カルシウム濃度の変化を空間的にも時間的にも高い分解能でデータ取得できる観察系を構築した(下図参照)。赤外線レーザーの出力や照射時間、そして照射する樹状突起部位を様々に変化させて入力刺激を定量的に制御しながら、FRET型プローブ分子を用いて細胞内カルシウム濃度のダイナミクスを記録している。刺激入力の部位によって異なるカルシウム反応パターンが見られるなど新たな知見が蓄積しつつある。
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