ヒトを含む高等動物の脳は高度な情報処理能力を持つが、その基盤となるのは、精緻に構築された神経回路である。神経回路の精緻化には、幼若期に外界からの刺激によるリモデリングを受けることが必要だが、その機構の大部分は未解明である。メゾ神経回路リモデリングの有力なモデルとして、マウスの体性感覚野に見られる「バレル」とよばれる組織学的構造の形成機構を明らかにすることを目的として研究を行った。具体的には、(1)発達期の視床-皮質シナプスのプレ側とポスト側の同時蛍光標識を達成し、それを用いてバレル形成過程を解析する、(2)回路特異的遺伝子操作法を用いて、体性感覚経路リモデリング機構を回路レベルの解像度で理解する、の二つの観点から取り組んできた。(1)我々は、視床-皮質軸索を緑色蛍光蛋白質で標識するトランスジェニックマウスの開発に成功した。また、大脳皮質に赤色蛍光蛋白質を導入し、樹状突起形態を解析するのに適した密度で体性感覚野第4層のspiny stellate cellsを標識するための条件検討を行い、それに成功した。この両者の技術を組み合わせることにより、バレル形成過程における体性感覚野第4層のspiny stellate細胞の樹状突起形態を、バレルの位置と対応づけて解析することが初めて可能となった。現在、このシステムを用いて、野生型マウスの体性感覚野第4層のspiny stellate cellsの発達過程の組織学的解析を行っているが、本研究費の支援を受け購入した共焦点顕微鏡はこれに大きく貢献している。(2)バレル形成過程における脳幹でのメカニズムを調べるため、2系統の脳幹特異的Creマウスを導入した。現在、これらのCreマウスを、アデニル酸シクラーゼ1(AC1)およびNMDA型グルタミン酸受容体NR1サブユニットのfloxマウスと交配し、それぞれの脳幹特異的ノックアウトマウスの作製を行っている。
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