計画研究
哺乳類の脳は高度な情報処理能力を持つが、その基盤となるのは、精緻に構築された神経回路である。動物が幼若期に外界からの刺激によるリモデリングを受けることが神経回路の精緻化に必要だが、その機構の大部分は未解明である。メゾ神経回路リモデリングの有力なモデルとして、マウスの体性感覚野に見られる「バレル」とよばれる組織学的構造の形成機構を明らかにすることを目的として研究を行った。平成23年度の主な進展は以下のとおりである:(1)前年までに開発に成功した「視床-皮質シナプスのプレ側とポスト側を同時標識できるシステム」を用いて、生後4日、5日、6日および16日目のマウスにおいて、NMDA受容体欠損細胞と正常細胞の間での、バレル細胞樹状突起のバレル中心への方向性とスパイン形態と密度を解析した。その結果、幼若マウスの大脳皮質におけるNDMA受容体の作用機序の一端が明らかとなった。現在、ノックアウト細胞の電気生理学的性質を理解するために、多点平面電極システムのセットアップを行い、条件検討中である。(2)バレル形成における皮質下のメカニズムはほとんど知られていない。視床および脳幹でのNMDA受容体の役割を知る目的で、視床特異的および脳幹特異的にNMDA受容体を欠損するマウスを作製し、そのバレル形成を組織学的に解析した。解析はまだ途中段階であるが、興味深い表現型が得られている。(3)アデニル酸シクラーゼ1(AC1)の全身性欠損マウスではバレル形成が障害されることから、AC1のバレル形成における重要性は明らかである。しかしながら、大脳皮質特異的AC1KOマウスではバレルはほとんど正常に形成される(Iwasato et al.,J.Neurosci.2008)。皮質下におけるAC1のバレル形成への関与の可能性を、視床特異的および脳幹特異的ノックアウトを作製することによって検討した。その結果、視床および脳幹のAC1のバレルおよびバレロイド形成における働きの一端が明らかになってきた。
2: おおむね順調に進展している
いくつかの技術的困難にも直面したが、それぞれ解決することができた。研究全体としておおむね順調に進展している。
特に問題はないので、当初の計画通り、遂行する。
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J Comp Neurol
巻: (Epub ahead)
10.1002/cne.23000