計画研究
高等動物の脳の高次機能の基盤となるのは精緻に構築された神経回路である。神経回路は、動物の幼若期に、外界から刺激をうけリモデリングされることにより成熟するが、こうした機構の大部分は未解明である。メゾ神経回路リモデリングの有力モデルとして、マウス体性感覚野に見られる「バレル」とよばれる組織学的構造の形成機構を明らかにすることを目的として研究を行った。今年度もっとも大きく進展したのは、バレル形成過程のin vivoイメージングである。昨年度までで主要な技術開発に成功していたので、今年度はそれを用いて,新生仔マウス脳での2光子励起顕微鏡を用いた観察を本格的に行った。生後4日目あるいは5日目から9時間あるいは18時間のイメージングを行うことに成功した。バレル細胞の樹状突起がバレル中心に向く特徴的な方向性を獲得する過程を具体的な観察対象とした。野生型における正常な発達過程およびNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)欠損細胞における発達不全過程の観察を行った。これらの解析により、新生仔期における神経回路精緻化機構の一端を明らかにすることができた。その他の進展として、体性感覚系回路精緻化における皮質下機構の解明がある。体性感覚系の回路精緻化は、マウスでは生後1週間の間に脳幹、視床、大脳皮質の順に起きる。皮質下領域(視床や脳幹)における機構の理解は大脳皮質と比較すると顕著に遅れているが、それを理解するために、視床および脳幹特異的にNMDARあるいはAdCy1遺伝子ノックアウトを行った。その結果、脳幹、視床のNMDARはそれぞれ脳幹、視床の回路精緻化に重要な働きをすることが明らかになった。一方、脳幹、視床のAdCy1は、それぞれ視床、大脳皮質の回路精緻化に重要な働きをすることがわかった。NMDARとAdCy1はそれぞれシナプスのポスト、プレで働いていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
特にin vivoイメージングに関しては大きく着実に進展した。ただし、世界初のこころみであり、技術開発を並行させて行ってきたが,その過程では多くの試行錯誤が必要であった。
今回成功したバレル形成過程のin vivoイメージングは、今後様々な周辺技術と組み合わせることによってさらに発展し、哺乳類大脳皮質の神経回路精緻化機構の解明に大きく貢献することが期待される。
http://www.nig.ac.jp/section/iwasato/iwasato-j.html
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PLoS One
巻: 7 ページ: e35676
10.1371/journal.pone.0035676
J. Neurol. Comp.
巻: 520 ページ: 1562-83
10.1002/cne.23000.
http://homepage3.nifty.com/iwasato/index.html