生後初期の個体の経験がいかなる神経活動変化となって回路変化を誘導するかはいまだ明らかでない。本課題は、視覚遮断による大脳皮質視覚野の眼優位可塑性という、発達期可塑性の強力なモデルを採用し、視床-皮質投射という特定の神経回路の経験依存的退縮機構に着目する。このモデル系において、1)視覚入力の有無は、視床と視覚野においてどのような神経活動パターンの変化としてコードされるかを解読する、そして、2)解読結果をもとに神経活動を操作することで入力軸索の退縮を制御できるか検証する。このことで、経験→神経活動の変化→回路変化の経路を明らかにする。 眼優位可塑性は麻酔下では発現しないことから、覚醒状態で視知覚に結びつく神経活動こそが神経回路の再編をも誘発すると想定される。従って、覚醒状態で行動中の動物で、視覚入力がどのような神経活動を誘発し、可塑性発現につながるのかを明らかにする必要がある。昨年度は、視床の視覚中継核である外側膝状体に単極金属電極を留置し、さらに容易に脱着できる視覚遮断用マスクを考案し、行動中の動物で視床ニューロン活動を記録できる実験系を確立した。今年度は、シリコン多極電極を用いたマルチニューロン活動の記録系を確立するため、ワイアレス神経活動記録装置を導入し(初年度導入予定であったが、物品納入の遅れのため今年度に繰り越した)、まず麻酔下の動物で大脳皮質より複数のニューロン活動を記録し、記録・波形解析システムを整備した。 上記と並行して、入力軸索の退縮が発達期のどの時点で生じるかを確認したところ、これまで可塑性が強く発現すると考えられてきた「臨界期」のピークよりも遅い時期に見られることが明らかとなった。
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