生後初期の個体の経験がいかなる神経活動変化となって回路変化を誘導するかはいまだ明らかでない。本課題は、視覚遮断による視床-皮質投射という特定の神経回路の経験依存的退縮機構に着目し、視覚入力がどのような神経活動パターンの変化としてコードされるか、神経活動を操作することで入力軸索の退縮を制御できるか、その可塑性はいつどのような機能分子の関与により生じるかを検討する。今年度は第3のポイント「可塑性の時期と機能分子の関与」について大きく進展した。 正常皮質での眼優位可塑性についても同様に年齢依存性を確認した結果、従来の報告通り、片眼遮蔽は臨界期のピークと終盤両方の時期で、遮蔽眼反応の減弱を引き起こした。しかし、入力軸索の形態を解析すると、生後40日付近では遮蔽眼軸索の退縮が観察されたのに対して、生後24日付近では退縮は認められなかった。さらにVGluT2免疫染色により、入力軸索上のシナプス前構造を見積もったところ、その密度に片眼遮蔽による影響は見られなかった。これらのことから、臨界期ピークの眼優位可塑性においては皮質ニューロンの機能変化が主たるものであり、入力軸索の刈り込みは臨界期の後期に発現して臨界期に生じた機能成熟を固定するという過程が考えられる。 シナプス伝達の逆行性調節因子として知られる内因性カンナビノイド系と眼優位可塑性の関わりを調べる目的で、マウス視覚野において内因性カンナビノイドの受容体CB1の生後発達に伴う発現変化を調べた。CB1の分布を免疫組織学的に調べると、V1内のII/III層とVI層に多く、臨界期開始前に発現が増加し、成熟期に至るまで発現は維持された。片眼遮蔽や暗所飼育は発現量を大きく変動させることはなかったが、深層の抑制性終末でのCB1発現が増加した。これらは、内因性カンナビノイド系が視覚入力依存的に変化することを示唆する。
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