研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
22115010
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
畠 義郎 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40212146)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 神経回路 / 視覚野 / 可塑性 / 内因性カンナビノイド |
研究実績の概要 |
本課題は、視覚遮断による視床-皮質投射という特定の神経回路の経験依存的退縮機構に着目し、視覚入力がどのような神経活動パターンの変化としてコードされるか、神経活動を操作することで入力軸索の退縮を制御できるか、その可塑性はいつどのような機能分子の関与により生じるかを検討する。H25年度は第3のポイント「可塑性の時期と機能分子の関与」について大きく進展した。 ・眼優位可塑性の年齢依存性を確認した結果、従来の報告通り、片眼遮蔽は臨界期のピークと終盤両方の時期で遮蔽眼反応の減弱を引き起こした。しかし、入力軸索の形態を解析すると、臨界期終盤では遮蔽眼軸索の退縮が観察されたのに対して、臨界期ピークでは退縮は認められなかった。このことから、臨界期ピークの眼優位可塑性においては皮質ニューロンの機能変化が主たるものであり、入力軸索の刈り込みは臨界期の後期に発現して臨界期に生じた機能成熟を固定するという過程が考えられる。また軸索上のシナプス部位を確認する目的で、生後動物の特定脳部位の少数ニューロンにのみ遺伝子を導入できる、電気穿孔法を用いた新規の遺伝子導入法を開発した。 ・シナプス伝達の逆行性調節因子として知られる内因性カンナビノイド系と眼優位可塑性の関わりを調べる目的で、マウス視覚野において内因性カンナビノイドの受容体CB1の生後発達に伴う発現変化を調べた。CB1の分布を免疫組織学的に調べると、視覚野内のII/III層とVI層に多く、臨界期開始前に発現が増加し、成熟期に至るまで発現は維持された。片眼遮蔽や暗所飼育は発現量を大きく変動させることはなかったが、深層の抑制性終末でのCB1発現が増加した。これらは、内因性カンナビノイド系が視覚入力依存的に変化することを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では視床-皮質投射軸索の形態を解析することで、神経回路の可塑性を評価することとしていた。しかし、今年度に、生後動物の特定脳部位の少数ニューロンにのみ遺伝子を導入できる、電気穿孔法を用いた新規の遺伝子導入法を開発した。この方法を用いて、蛍光標識したシナプス前終末のマーカータンパクを発現させることでことで、軸索の形態のみならず、その上に分布するシナプス部位を調べることが可能となる。この手法は本計画を予定以上に進展させるだけでなく、多くの動物種や脳領域に適用可能であることから、神経科学全般に貢献できるものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
入力軸索の可塑性が、従来言われてきた臨界期ではなく、その後半にのみ発現するということは、予想外の発見であった。これにより臨界期の前半と後半、すなわち軸索退縮が起きない時期と起きる時期の可塑性を比較し、神経回路の発達機構や弱視からの回復過程をさらに明らかにすることができる。今後はそれぞれの時期の可塑性について、シナプス前部と後部とのかかわりなどシナプスレベルの変化を探索する。 また、眼優位可塑性発現への内因性カンナビノイド系の関与を直接調べるため、内因性カンナビノイドの合成阻害が可塑性に与える影響を調べる予定である。
|